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君が朝になる前に 優しい声

君が朝になる前に まだ眠っている。 たったそれだけで、 僕はもう少し悪い人間になる。 起こしたくない。 でも、触れたい。 この矛盾だけで 胸の奥が朝焼けみたいに熱くなる。 カーテンの隙間から 細い光が入ってきて、 君の肩のあたりで止まる。 ずるい、と思う。 光はいい。 許されている顔で 君に触れるから。 僕は息をひそめて、 君の髪の乱れを見ている。 昨日の夜、 僕の腕の中で眠るまで 何度も笑って、 何度も名前を呼んで、 最後には何も言わなくなった君。 その静けさを思い出すだけで、 もう一度、 君を抱き寄せたくなる。 でも君は眠っている。 だから僕は 君の手だけを探す。 指先が触れた瞬間、 君が少しだけ動く。 その小さな反応で、 僕の理性は 今日も簡単に負ける。 君は目を開けないまま 僕のほうへ近づいてくる。 まるで、 夢の中でも 僕の場所を知っているみたいに。 僕はたまらなくなって、 君の額に口づける。 それだけで済むと思った。 済むわけがなかった。 頬に。 まぶたに。 こめかみに。 眠りの残った唇のすぐそばに。 君が小さく笑う。 「起こした?」 そう聞く君の声が まだ朝になりきっていなくて、 僕は返事を忘れる。 起こしたかったわけじゃない。 ただ、 君がここにいることを 体中で確かめたかった。 この部屋に、 この腕の中に、 このどうしようもない一日の始まりに。 君が僕を見る。 その目だけで、 僕の中の整った言葉は全部崩れる。 愛してる、では足りない。 大事だよ、では軽すぎる。 欲しい、だけでは乱暴で、 守りたい、だけでは嘘になる。 君に触れたい。 君を壊したくない。 君の全部を見たい。 君が笑う場所で生きていたい。 その全部が一度に押し寄せて、 僕はただ、 君を強く抱きしめる。 君の髪に顔を埋める。 朝の匂いがする。 少し眠くて、 少し甘くて、 僕が一生、負けてもいい匂い。 君が胸元で笑う。 「なに?」 何でもない。 何でもないはずがない。 でも言葉にすると また少し薄くなるから、 僕は君の背中を撫でて、 もう一度だけキスをする。 今度は、 さっきより長く。 君が黙る。 その沈黙で、 僕はやっとわかる。 詩は、 綺麗に言えた気持ちじゃない。 君の名前を呼びたいのに、 唇が先に震えてしまう、 その一秒のことだ。 朝が来る。 世界が動き出す。 でも僕はまだ、 君を離せない。 今日という日が始まる前に、 どうしても君に伝えたい。 君が眠っているだけで 僕はこんなにも困る。 君が目を開けるだけで 僕はこんなにも救われる。 君が僕の名前を呼ぶだけで この世界は、 また少し、 生きる価値のある場所になる。