君は花の名前ばかり覚えていた 帰り道の途中で立ち止まって 塀の向こうを指差しながら 知らない名前をひとつずつ 僕に教えてくれた 僕は頷くだけだった どうせ明日には忘れるのに 何だか嬉しかった 白線の上を歩きながら 落ちたら負けだと笑っていた 先を行く君の背中を 追いかけるだけの夕方 どれだけ遠くまで歩いただろう 君と話したことはほとんど 思い出せなくなったのに 名前も知らない花を見れば 立ち止まってしまうんだ 風が吹くたび揺れていた あの日と同じように 街は少し変わったらしい よく通ったあの道にも 知らない店が増えていた それでも角を曲がるたび 君が現れそうな気がして 少しだけ足が遅くなる 忘れたものから順番に 遠くなると思っていた けれど最後まで残るのは 案外そんなものじゃない 嗚呼、フリージア 君は花の名前ばかり 僕に教えていたっけな 結局ひとつも覚えられず 困らせてばかりいたけれど 嗚呼、フリージア 白い花が揺れるたび 君の声より先に今も あの日の笑顔を思い出す


