月の雫 花を濡らし 君が名ばかり 夜にほどけぬ 薄墨の空に 鈴の音ひとつ 袖に宿りし雫わ いまだぬくし 散りゆく花ほど 香を残し 触れし指のみ 春を忘れず 君が注ぎし やはらかな水に われわ咲きにし花なれど 満つるほどに 影もまた濃く 胸の奥にて 月わ欠けゆく 愛し、と告げし声さえ 遠き波紋となりにけり 抱きしめし温もりも 夜露のごとく冷えゆく 雫 雫 こぼれ落ち 花弁 花弁 水に沈む 満ちし想いわ 月のごと しづかに姿を変へてゆく 注がれし愛の深さゆえ 胸の底まで満ちすぎて われわ息さえ忘れつつ 笑みて花を伏せにけり 紅さす夢路に 狐火ゆれて 結びし契りわ 水面に滲む 永久などと呼ぶ言の葉ほど 指に触るれば 淡く消ゆる 花わ空へと咲くものと かつてわ疑ひもせず されど夜風に揺らぐたび ひそかに影を見せにけり 恋し、と泣きし声さえ 白き霧へと変はりゆく 近づくほどに君わ遠く 月のごとく霞みけり 雫 雫 零れゆき 花弁 花弁 そと返る 水面に映る月ばかり まことの顔を隠しけり 注がれし愛わやさしけれど やさしきほどに重くなり われわ静かに手をほどく なお君を想ひながら 月の裏を見しわけでなく 花の奥を知りしわけでなく ただ触れし雫ひとつ 思ひ出よりも冷たかりけり 好きでありし 好きでありし されど今宵わ 言の葉にせず 雫 雫 降り積もり 花弁 花弁 舞ひ散りぬ 欠けし月の満つる頃 われわ別の夢に咲かむ 注がれし愛も 冷めゆきし想いも 名づけぬまま胸に置く それもまた愛なりけり 月の雫 花を濡らし 君が名ばかり 夜へ沈みぬ