
冷めたスープと、錆びたプライド ~originalversion~
レンタル業者は 時間通りに来る 「ご愁傷様です」 テンプレの挨拶に 僕は丁寧な お辞儀で返した コントの練習でも しているみたいに 冷蔵庫には 余り物の野菜スープ 一人分を作る 技術(スキル)が欠けている 腐らせるのが 落ちだろうに 「まだ食べられる」と 誰に言い訳してる? 右に回して 次は左 君の身体は 重たいだけの荷物のようで 「痛い?」なんて 愚問を投げては 素人(しろうと)の手つきで 骨を撫でる 末期だと知った あの日の夕暮れも 僕は「免疫療法」なんて 魔法を信じた 現実逃避の 専門家(スペシャリスト) 君の命より 自分の安心を選んだんだ なあ、映画の主人公なら もっと綺麗に 泣けるんだろうな 僕は鏡に映る 冴えない中年男の 充血した目を 眺めているだけ 今更だけど おめでとう 僕みたいな 欠陥品を押し付けられて 最後まで 逃げ出さなかった君に 皮肉の一つも 言わなきゃ やってられないよ 今更だけど 素晴らしいね 愛なんて 便利な言葉で着飾って 君が消えた 鉄のフレームの上で 抜け殻の温もりを 必死に探してる 「どこか行きたい所ある?」 死にかけの君に 吐いた僕の台詞 「比叡山」なんて 宗教の真似事か? 本当は 僕が救われたかっただけ 「電車で行こうね」と 笑った君に 「まだ運転、大丈夫だよ」と返した あの期に及んで 僕はまだ「男」でいたかった 滑稽なプライドを 握りしめたまま 10日間だけの 聖域(サンクチュアリ) 返却の朝 段ボールに詰められる君の記憶 業者は手際よく 汚れをチェックして 「はい、完了です」と サインを求めた 僕の半年間は 数枚の伝票(レシート)に 書き換えられて 運び出されていく 今更だけど ありがとう 僕みたいな ろくでなしの隣で 退屈な 人生を演じてくれて 感謝の言葉なんて 吐き気がするほど似合わない 今更だけど 愛してる そんな手垢のついた フレーズしか残ってない 君のために 元気に生きるなんて 笑えないジョークを 自分に言い聞かせてる 冷めたスープを 無理やり流し込み 「味がないな」と 独り言をこぼす 君なら「腕が落ちたね」と 笑うだろうか それとも 呆れて 黙り込むだろうか ……まだ大丈夫だよ 僕はまだ 嘘を吐き続けられるから まだ大丈夫だよ ……いや、本当に大丈夫にならなきゃ

