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Zero のプロローグ 〜虚ろの街〜

街の灯(あか)りは、とうの昔に消え失せていた。 人々はただ歩く。行くあてもなく、目的もなく、ただコンクリートの割(わ)れ目を足を引きずるようにして。 そこに怒(いか)りはない。涙(なみだ)すらない。あるのは底知(そこし)れない虚脱(きょだつ)と、すべてを諦(あきら)めきった無気力(むきりょく)だけだ。他人が目(め)の前で倒(たお)れようと、誰(だれ)かが飢(う)えに苦(くる)しもうと、誰も振(ふ)り返(か)りはしない。無関心(むかんしん)という名の分厚(ぶあつ)い壁(かべ)が、すべての心(こころ)を隔(へだ)てていた。 「自分(じぶん)がよければ、それでいい」 それがこの世界(せかい)の唯一(ゆいいつ)にして絶対(ぜったい)のルールだった。 政治(せいじ)は形骸化(けいがいか)し、崩壊(ほうかい)して久(ひさ)しい。権力者(けんりょくしゃ)たちは私腹(しふく)を肥(こ)やすことだけに狂(くる)い、癒着(ゆちゃく)こそが正義(せいぎ)であり、金(かね)がすべてだった。国民(こくみん)から吸(す)い上げられる税金(ぜいきん)は、富(と)める者(もの)たちの贅沢(ぜいたく)のために湯水(ゆみず)のように消(き)えていく。それはもはや国家(こっか)の統治(とうち)ではなく、合法的(ごうほうてき)な略奪(りゃくだつ)だった。 個人(こじん)の尊厳(そんげん)など最初(さいしょ)からない。いや、個(こ)にすら似(に)あわない。 それは「国(くに)そのものの緩慢(かんまん)なる崩壊(ほうかい)」だった。崩(くず)れかけた社会(しゃかい)の澱(おり)の上(うえ)で、誰もが滅(滅)びの予感(よかん)を感じながらも、ただ目先(めさき)の利己主義(りこしゅぎ)にしがみついていた。 そして――時(とき)は満(み)ちた。 愚(おろ)かさの果(は)てに選(えら)ばれた選択(せんたく)は、あまりにも唐突(とうとつ)で、そして必然(ひつぜん)だった。 空(そら)を焼(や)き尽(つく)す閃光(せんこう)。すべてを無(む)へと還(かえ)す轟音(ごうおん)の。 核(かく)の炎(ほのお)が世界(せかい)を呑(の)み込(こ)み、長(なが)い、長(なが)すぎる沈黙(ちんもく)が訪(おとず)れた。 燃(も)え尽(つく)したあとに残(のこ)されたのは、ただ灰(はい)と、凍(こ)てついた雨(あめ)だけ。 その残酷(ざんこく)な結末(けつまつ)の果(は)てに、世界(せかい)はあの静寂(せいじゃく)へと堕(お)ちていく――。 凍(こ)てついた雨(あめ)が 剥(は)き出(だ)し手(て)のコンクリートを打(う)つ 名前(なまえ)のない廃墟(はいきょ)で ただ呼吸(こきゅう)(いき)だけが擦(す)れる 光(ひかり)は遠(とお)く 届(とど)かない ここには 影(かげ)すらない 過去(かこ)も未来(みらい)も 錆(さ)び付(つ)いた歯車(はぐるま)のように 音(おと)もなく止(と)まり ただ時間(じかん)だけが重(おも)く沈(しず)む 何(なに)を探(さが)していたのか 何(なに)に怯(おび)えていたのか すべては白(しろ)く濁(にご)った虚無(きょむ)の中(なか)へ 息(いき)ができない 心臓(しんぞう)の鼓動(こどう)が 冷(つめ)たい床(ゆか)に吸(す)い込(こ)まれていく 救(す)いなどない 終(お)わりなどない ただ、終(お)わりのない静寂(せいじゃく)が広(ひろ)がるだけ (漆黒(しっこく)の深淵(しんえん)へ沈(しず)むように、音(おと)は完全(かんぜん)な無音(むおん)へと消(き)えていく……)