路地の片隅で 小さな足音がそっと生まれていた そのかすかな気配だけで 街の空気が少し変わっていく キジトラの模様が 日差しの中でふわり溶けていって 触れられそうで触れられない距離が なぜか胸をくすぐってくる 何も語らないまま ただ路地をゆっくり歩く姿が 心の奥のざらつきを 静かにほどいてくれる 風に揺れる草の影を じっと見つめて止まる横顔が その頼りない仕草さえ なぜか涙を遠ざけてくれる うまくいかない日でも この小さな訪問者を見つけた瞬間 世界の色がそっと 明るく変わっていく気がした 夕方の光の中で キジトラがまた路地を横切る頃には その静かな存在だけが 僕の心をそっと支えていた 名前も知らないまま すれ違った足取りが少し軽くて 今日のこのささやかな出会いだけが 胸の奥で静かに息をしていた


