
八百八町 寝静まる頃 私の仕事は ここから始まる 迷い猫一匹 どぶ板の隅 埃に塗れた しがない稼業 便利屋さん、 あれを聞いたかい? 長屋の噂は毒より回る 丑三つ時、あの大橋を 渡れば最後 黄泉への 片道 霧に沈んだ 大橋の真ん中 手招きするのは 白き指先 妖か幽霊か 正体見たりと 啖呵を切れば 引き摺り込まれる 奈落の底へ 袖を翻し 私 は 往 く 懐に隠した 錆びた十手 雑用(しごと)の ついでに 引導を渡そう 人の恨みか この世の未練か 見えない鎖が 足首に絡みつく 生死の境で ニヤリと 笑う 三途の川面に映る月影 逃がしはしないよ この事件( やま )だけは 嘘か、誠か この眼で暴いて 引きずり戻す 江戸の夜明けは まだ遠いけれど 地獄の門まで 追い 詰めてやる 橋の向こうで 三毛猫が鳴いた やれやれ、高くつくよ 今回の依頼は 煙管の煙が 闇に溶けて 私は独り、 現へ帰る...


