
昼下がり、蝉の声に溶けて消える 舞い降りる影ひとつ、わたしか、蝶か。 くすんだ羽根の奥、やましさ纏い 鏡の表も裏も、意地悪な嘘つき。 咲かぬ花壇、白い体育靴の汚れに惜しみなく埋もれ 悲劇と知り、この身をみっともなく嗤う群れ 蝶だなどと纏うな、蛾でしかいられぬ夜のわたし 先生も母も淡白な君も、理解せずに憐れむだけ 女子トイレの個室、指先に刻む微かな赤 痛覚だけがわたしの証、這いつくばり夜更けにしがみつく 見て欲しいわけじゃない 見下ろされる窓際、手折られて乾く羽根 誰かに認められたくて、でもそれが全部偽物 素直の仮面、剥がしきれるものなら この愛らしき仄暗い檻、噛み千切るのに 誰かの期待、誰かの声 棘だらけの褒め言葉で 心は緩やかに崩れ落ちる ねえ、蝶だと謳うその眼が どれほどわたしを嘲るか知ってる? 欲しいものは一つもないが 空っぽを埋める何か 叫びも届かぬ廊下の隅で 噛みしめる舌に苦み 男子の嘲笑、母の嘆息 押しつけられた理想と本音の間(はざま) 息苦しさだけが友だちさ 「可愛い」の檻で羽ばたく真似などしたくはない 落日、終わりに向かう教室 だれも気づかぬ痛みに浮かぶ輪郭 淡い色も鮮烈な黒も、全てが混ざれば灰になる ただ一つ、わたしの中の蛾の叫び、 羽音は隠せぬまま 認めて欲しいだなんて嘘 本当は、誰にも見つけられず消えたいの 美しき蝶、だなんて欺瞞 ご覧なさい、この傷ついた羽根 錆びた鍵、鳴く蛙、深夜二時の電灯下 わたしは誰にもなれず、羽化もせず 揺れる影法師を足で消した 他者を拒み続けて、 己すら拒絶することに救いを見出す 蜜を求めるほどに、孤独の泉へと沈む 「大丈夫」と繰り返す別の声、 それすらも欺瞞の踊り 嗚呼 声は漏れ 夜の裾 嗤うように ひび割れた音 誰にも聴こえぬ 名前を呼ぶ 途切れた願い 爪の先 ほどけた未来を 餌に食らう 遠ざかるあの日 綴った嘘 沁みる涙よ いまさら誰のため 熱を帯びて滲む 冷たい羽音 沈む月だけ わたしを映す 例えば優しさが 罪ならば この身 蹂躙されて消えた方が 蝶も蛾も 眩暈に舞うだけ 悲しいって言えば済むなら簡単だろ 全部焼き払ってしまえばいいのに けど羽根の色さえも呪われて、 誰かの掌で転がることしかできなかった もう要らない、期待も仮面も 全て剥がせば、この羽根も消えてしまう それでも、蝶であるふりさえやめられぬなら せめてこの闇に溶けてしまえ 風もない、夜半の橋の上 羽根をたたみ、そっと舞い降りる 誰にも気づかれぬ静寂、 磨り減った命を 水面に滑らせて 薄明かりの先、 翅は翳り、 泡沫の夢となる

