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墓守の狼

V5.5

これは少し 昔の話 野山を駆ける 若き狩人 獣道にて 出会いしものは 傷を負いたる 若き狼 弓を下ろして 足を巻き 去りゆく牙を 見送った 野営の夜 炎の向こう 兎をくわえ 狼来たる 分けた獲物と 同じ火のそば 触れれば牙を 剥くけれど それは不思議と 怒りではなく 名も呼ばぬまま 時は過ぎたり 矢尻と牙が 山を駆ける 互いに群れない 者同士 馴れ合うことも 従うことも ないまま共に 山を生きたり これは墓を 荒らす獣の 恐ろしき名で 呼ぶ歌じゃない 友の眠りを 守り続けた 狼の名を 今返さん ある冬の日に 崖は崩れて 若き狩人 谷に伏した 動けぬ友を そばで離れず 狼は山を 駆け戻る 兎を運び 鳥を運び 生きよと言わず 命を置いた 人が見つけた 朝の谷には 小さき亡骸 いくつもあり それは獣が 荒らした跡か いいや違うと 歌は知る 生かそうとした 友を救うため 言葉も持たぬ 獣の心 これは墓を 荒らす獣の 恐ろしき名で 呼ぶ歌じゃない 友の眠りを 守り続けた 狼の名を 今返さん 山の外れに 墓は築かれ 狩人静かに 土へ帰る 狼は去らず 石のそばに 夜ごと遠吠え 風へ放つ やがて子らへと 受け継がれたり ここは守るべき 友の眠りと 人は忘れて 恐れだけ残し 牙の意味さえ 見失った されどこの歌 ここに告げん 怒りではなく 弔いであると 遠吠えの声 風を渡り 眠れる友へ 今届け これは墓を 荒らす獣の 恐ろしき名で 呼ぶ歌じゃない 友の眠りを 守り続けた 狼の名を 今返さん 呪いの名など 返しはしない 恐れの名など 残しはしない 友を守りし その遠吠えに 墓守の名を 今返さん 歌を聞きし 狼たちは 役目終えたる 影のように 山の深みへ 静かに消えて 遠吠えだけが 風に残る 狩人たちは 弓を下ろし 後を追うことも なくなりて 彼の墓を 改めて祀り 土へと心を 返した これぞ 名を取り戻す 歌