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その弦は何故

V5.5

歌がやんでも 石は震えて 廃城の風は まだ冷たい シエラはそっと 胸を見下ろす 抱いていた弦が 小さく鳴る あの歌に出た 古きマンドリン わたしはなぜか 知っている気がした 傷ついた木肌 星の印 青き雫が 揺れていた 見たことないと 言い切れなくて 知っているとも まだ言えなくて 指先だけが 答えを探す 胸の深くで 弦が鳴く エリアスはただ 何も言わずに シエラの手首へ そっと触れた 結び目ほどけ 革紐落ちる 剣ではなく 指でほどいた その弦は何故 胸の奥で鳴る 知らないはずの 夜へわたしを呼ぶ 崩れた祈りの その先へ行こう 名もなき礼拝堂が 風の中で待つ 魔女でもないと 異端でもないと エリアスは 静かに言った 今までの非礼を ここに詫びる されどどうか 頼みがある 廃城の外は 曇り空 白き道は 草に埋もれて 丘の先に 残るという 古き礼拝堂が まだ眠る 逃げた者たちが 辿り着いた場所 祈りも名前も 崩れた場所 誰も語らぬ 夜の続きを おまえの弦で 確かめたい その弦は何故 胸の奥で鳴る 知らないはずの 夜へわたしを呼ぶ ほどけたはずの 手首より深く まだ見えぬ何かが わたしを繋ぐ あのマンドリンは なぜこんなにも わたしの胸に 近く響くの 誰かの指が まだ残るように 誰かの熱が 消えないように 知らないはずの 傷の形 触れればなぜか 涙が出そう 崩れた門を ふたりで抜けて 枯れた草道 足を進める シエラは弦を 強く抱いて エリアスはただ 少し先を行く 縛られたままの 旅ではなく 許されたからの 自由でもなく 問いと願いが 並んで歩く 灰の匂いの 丘の向こうへ その弦は何故 胸の奥で鳴る 知らないはずの 夜へわたしを呼ぶ 崩れた祈りの その先へ行こう 名もなき礼拝堂が 風の中で待つ 遠くに見えた 崩れた屋根 鐘なき塔が 空を指す シエラの弦が またひとつ鳴る 知っているような 夜の前で