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先にソースを入れた夜

V5.5

彼とは 付き合い始めて 二か月 今日は 小さな お祝いの日 だけど彼は 残業で 会えない それでも 電話は くれた ちゃんと 仕事しなきゃ だめだよなんて わたしは 笑って言った 電話の向こうで キーボードを 叩く音 今度 いつ会える 明日 うん 楽しみに してるね その声を 聞きながら わたしは お湯を 沸かしていた 蓋を開けて 袋を並べて かやくと ソースと 未来みたいに 小さく 並べた 電話が 切れたあと 部屋は急に 静かになった 蓋の上に ひとつ 残っていた かやく じゃあ さっき入れたのは 何 湯切りの前に ソースを入れた まだ白かった麺に 戻れない色を つけた ごめんね あなたを 汚してしまった 純潔だった あなたを わたしが 汚してしまった 色恋に かまけて あなたを 見ていなかった 蓋の中で 静かに 待っていた 白いあなたを わたしは ちゃんと 見ていなかった 明日の約束に 浮かれて 小さな袋の 文字を 読まなかった こんなわたしに 恋なんて する資格 あるの 湯切りの前に あなたを染めた まだ戻れるはずの麺に 戻れない色を つけた かやくは まだここに あるのに わたしの過ちは もう 蓋の中で 香っている あなたを どう救えばいいの このまま 食べればいいの それとも 流して 中濃ソースで もう一度 色をつければいいの いいえ そんな冒涜 してはいけない 後入れの掟さえ 守れなかった わたしが これ以上 何をしていいと 言うの わたしはもう 罪びと 神も お湯も わたしを 許さない あれから 何分 経ったのだろう もう麺も ふやけて 膨らみ始めている これ以上 あなたが 傷つかないように 決めなければ ならない 流すのか 食べるのか でも どうせ 罪びとなら 堕ちるところまで 堕ちてみるのも 悪くない 湯切りの前に ソースを入れた 恋に浮かれて あなたを 見ていなかった かやくは まだここにある 遅すぎた祝福が 手のひらで 震えている ごめんね あなたを 救えなかった でも この夜を なかったことには できない 茶色く染まった あなたに かやくを 降らせて ごめんね これは 救いじゃない これは わたしの 最後のわがまま 神よ 罪深きわたしを どうかお許しください わたしは 箸を取った