Song Cover Image

月の女神の胎内

+ Show full styles
V5.5

逃げ込む場所など もうどこにもなく 傷だらけの船は 夜の海を裂いた 白い選定の声が 空を覆うころ 名前を奪われた火は まだ沈まなかった マリの記録が 座標を重ねる ニュクスが現れた あの海の底 アルテミスの神殿 月の名を抱いた石 そのさらに下に 夜の船渠が眠る レーチェルの声が 冷たく問いかける ここで私たちを 一網打尽にできると エアは静かに 瞬きもせず 可能ですとだけ 嘘なく答えた 信じろとは 言わない 監視して ください けれどこの船を 壊すつもりなら ここまで 案内しません 月の女神の胎内へ 夜が口を開く 月の名を抱く石の下 黒い海が割れる プロメテウス その名を抱いたまま 古い名に呼ばれて 星の腹へ入る 岩肌に 青白い線が走る 海水が引いて 扉が目を覚ます ユーリが笑う 少しだけ震えた声で 月の女神の神殿の下に 夜の女神の城か エアは言う 城ではありません なら夜の女神の船渠だと 彼は言い直した 入港識別 古い文字が灯る 旧裁定艦 イグニス ブレンダンが低く 舌打ちをした 勝手に昔の名で 俺の船を呼ぶな 月の女神の胎内で 火の名が暴かれる 人がつけた名前と 星が刻んだ名前 プロメテウス まだお前は飛べるか 閉ざした血管へ 光が戻っていく 外の世界は まだ燃えていた 選定拒否圏 通信途絶 核の火さえ 空で砕かれた 抵抗は無意味と 白い声が告げる それでも途切れた波の奥 貴艦の健闘を願う まだ諦めないで あなた方だけが 次の一手に届く マリは声を 飲み込んだ 絶望だけではない だからこそ痛かった 外殻に光が走る 裂けた装甲を縫う 人が知らずに閉じた 古い系統が開く ルイスが息を呑む 神様の残骸と ジャマーの波形が 噛み合い始める 治っていく けれど間に合わない 世界は今も 焼かれている その時 格納区画が鳴いた EX.ORBISの体外を 細い光が走る 明滅して また消えて 誰かが無理に 扉を叩いていた 彼ですと エアが言った レーチェルが走る 夜の廊下を抜けて コックピットの奥で アルカは座っていた 青白い顔に 血が落ちていた なんで動かないんだよ 声は怒りで 震えていた 俺はこいつを動かすための 鍵なんだろ 父さんは そう思ったんだろ 私が もうひとつの鍵です エアは隣の席へ 静かに腰を下ろす 震える手を隠さず コンソールに触れた その瞬間 眠っていた線が脈を打つ 新たなEX反応 いえ これは 嘘 マリの声が ブリッジを裂いた EX.ORBIS本体 起動前段階へ移行 動いたと アルカは呟く 完全起動ではありませんと エアは答える けれどその手は 小さく震えていた 過去が 目を覚ましている エア 彼女は少しだけ 目を伏せた 話すには 昔話が必要です アダムと 私の話です