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Still, I chose……鬼甲猟兵カンツィール

No place to run in the night 線を引くしか なかった No need for words this time 歩き出すしか なかった I knew the hurt 君が口にする I felt the pull 『愛してる』 My hand still moved それは簡単な嘘 Another door Let the night stay black 君はきっと Some choices stand 都合のいい Because you don’t go back 涙を Heavier than love 流すだろう I chose it If I turned back, it breaks 君の名前に 縋れば So I don’t look at all きっと全てが 終わってしまう I had the heart, Enough to spare 僕の心は I left it unused, That’s all 僕だけの物 Still not undone たとえ『涙』に Heavier than love 壊されようとも I chose it There is regret So I carry this Let the night stay black 君はきっと Cold and long 都合のいい過去に I don’t count loss 僕を埋葬する I hold what’s left それでも…… I don’t need saving 僕は歩き続ける Still, I chose --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- ■ミニストーリー:金剛石■  ――夜空が焼けている。  帝都外縁区では、砲撃の途切れた時間の方が短い。昨日まで残っていた高架の一部は夜半の直撃で崩れ、道路を塞いだ瓦礫の下からは、潰れた車両の後部だけが突き出している。火は消えていても焦げた臭いは残り、切断された配管が白い蒸気を吐き続けていた。    その傍らに、都市戦用機械兵カ号――カンツィールが立っている。  貫一は機体の脚部にもたれ、ヘルメットを片手に帝都中枢の方角を見ていた。  煤煙の向こうには、まだ灯りがある。  外縁区では窓の残っている建物を探す方が難しいというのに、中枢区では高層ビルの輪郭が夜空に並び、その中でも富山財団本社はひときわ高い。何度か空襲を受けたはずだが、上層階まで明かりが戻っている。 「先輩、財団のビル見てたんですか?」  狭山が横へ来る。  同じ小隊に入ってまだ日は浅いが、妙に馴れ馴れしく、配属初日から貫一を先輩と呼んでいる。 「この辺も、そのうち財団が買うらしいですよ。再開発とかで」 「誰から聞いた」 「整備班です」 「整備班は?」 「補給部の知り合いから」  貫一が黙ると、狭山は肩をすくめる。 「まあ、噂ですけどね」  少し離れた場所で爆発音が響き、カンツィールの装甲から細かな灰が落ちる。狭山は一度そちらへ目を向けただけで、話を続けた。  この辺りでは、それで済む。  レジスタンスに集まる情報も、人間も、似たようなものだった。  軍から逃げてきた兵士がいる。工場を接収されて職を失った者がいる。徴用を拒んだ者、家族を処分施設へ送られた者、新しい制度の中で名前そのものを失った者もいる。  帝国を倒すために来た者ばかりではない。  どこにも行けなくなった末に、ここへ流れ着いた人間の方が多い。  ――貫一もそうだった。  かつて鴫沢家にいた。  大きな屋敷で、同じ食卓につき、同じ灯りの下で暮らしていた。  けれど家族ではない。  保護されていた。それだけだった。  新戸籍法が施行されると、曖昧な立場にあった貫一の名前は名簿から消えた。戸籍がなければ、働くことも、住む場所を借りることも難しい。身元を保証する家もなくなった人間を、制度は容赦なく外側へ押し出していく。  ――その先に処分施設があった。  生きて出られたことに、大した理由はない。  運が良かった。  それだけで十分だった。 「しかし、あれだけ明るいと目立ちますよねえ」  狭山が富山財団本社を見上げる。 「俺なら怖くて、あんな高いところ住めませんよ」 「住む場所じゃないだろ」 「上の方に会員用の居住区があるって話ですよ」 「それも整備班か」 「これは補給部です」  狭山が笑う。  貫一の視線は、まだビルから離れない。  その灯りを見ているうちに、煤煙の向こうへ昔の景色が重なった。  ――まだ帝都の空が焼けていなかった頃。  大きな窓の前に宮が立っている。  何の用事でそこへ出かけたのかは、もう曖昧だった。誰と一緒だったのかも、部屋がどこにあったのかも思い出せない。  ただ、窓硝子の向こうに広がる街を見て、宮が笑っていた。  ――綺麗でしょう。  その声だけが残っている。  当時の貫一は、たぶん何か答えた。  けれど何と言ったのかは思い出せない。 「先輩?」  狭山の声で、焼けた外縁区が戻ってくる。 「どうしました?」 「……何でもない」 「そうですか」  それ以上、狭山は聞かなかった。  富山財団本社の上層階では、また一つ窓に灯りが点く。  宮が今どこにいるのか、貫一は知らない。  同じ帝都にいるのか。  誰かに守られて暮らしているのか。  あの頃と同じように、夜景を綺麗だと言っているのか。  知ろうとも思わない。  ――無線が鳴る。 『各機、搭乗。次、行けるか』  鰐淵隊長の声。 「行けます」  狭山が答え、自分の機体へ向かう。  貫一もヘルメットをかぶった。  胸部ハッチからカンツィールへ身体を滑り込ませ、固定具を締める。主電源を入れると、暗かった計器類が次々に立ち上がり、照準器の中へ崩れた街並みが映し出された。  ――ハッチが閉じる。  富山財団の灯りも、帝都中枢も、宮の記憶も、厚い装甲の向こうへ消える。  通信回線に鰐淵の指示が流れ、前方では敵味方の砲火が再び夜を裂き始めていた。  貫一は操縦桿を握る。  選ばれたからではない。  信じたからでもない。  戸籍を失い、家を失い、それでも処分施設を生き延びた。  そして流れ着いた場所に、戦うための機体があった。  ――ここにいるしかなかった。  カンツィールが、瓦礫を踏み越えて歩き出す。 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- ■カンツィール■ 型式番号:都市戦用機械兵カ号(レジスタンス・カスタム) 全高:10.7m 本体重量:46t 全備重量:54t 固定装備:高周波ナイフ 武装:115mmバトルライフル    40mmサブマシンガン    有線式地対地ミサイル    拡散ミサイル 乗員:1名