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冬の記憶 (樋口一葉 "反古しらべ"より)

虫干しの日 かびの匂いに埋もれた紙束の中 兄の手が残した筆の跡 夏の記憶がそっと顔をのぞかせる 脳の影が忍び寄る前 細やかな心の動きを刻んだ言葉たち そこには、兄の静かな戦いがあった 冬の夜は冷たく 霜の降りる空気の中 父と母の寝室へ忍び込み 襖の軋みを直した兄の姿が浮かぶ 母の声が今も耳に響く 「寒いから早くおやすみ、風邪をひかないで」 その言葉は灯火のように 夜の冷たさを溶かしてくれた もう戻らないあの冬の光景 兄の優しさも 母の温もりも すべて、この心に生きている 虫干しの風が運ぶのは 古い紙の匂いだけじゃない 忘れかけた家族の記憶 その温かな欠片を そっと、今、拾い上げる