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最御崎寺(ほつみさきじ) ー 声は、境界線を越える

【Open Sea ― 96 BPM/12/8】 (太平洋の波音) (クリーンギターだけ) 【Singer B】 阿波(あわ)の最後(さいご)の札所(ふだしょ)から 海沿(うみぞ)いの道(みち)を 南(みなみ)へ進(すす)む 右手(みぎて)には 終(お)わらない水平線(すいへいせん) 左手(ひだりて)には 風(かぜ)に削(けず)られた大地(だいち) いくつ夜(よる)を越(こ)えたのか いくつ草鞋(わらじ)を 結(むす)び直(なお)したのか 白衣(びゃくえ)の裾(すそ)に 潮(しお)が乾(かわ)いて 金剛杖(こんごうづえ)に 今日(きょう)の重(おも)さが残(のこ)る 土佐(とさ) 修行(しゅぎょう)の道場(どうじょう) その最初(さいしょ)に立(た)つ岬(みさき)は 優(やさ)しい入口(いりぐち)ではなかった 【Wind Layer ― 106 BPM】 (ベースが加わる) 【Singer B】 かつて この寺(てら)には 越(こ)えてはいけないとされた 境界(きょうかい)があった 女性(じょせい)のお遍路(へんろ)は 室戸岬(むろとみさき)の先(さき)から 遥拝(ようはい)したと伝(つた)わる 石段(いしだん)の向(む)こう 木々(きぎ)の向(む)こう 姿(すがた)の見(み)えない 本尊(ほんぞん)へ 海風(うみかぜ)の中(なか)で 手(て)を合(あ)わせた その人(ひと)の名前(なまえ)は 残(のこ)っていない どんな言葉(ことば)を 唱(とな)えたのかも 確認(かくにん)できない それでも ここまで歩(ある)いてきた祈(いの)りが 小(ちい)さかったはずはない 【Black Rocks ― 116 BPM】 (フロアタムが加わる) 【Singer A】 黒潮(くろしお)が 黒(くろ)い岩(いわ)を打(う)つ 岩(いわ)は砕(くだ)けず 長(なが)い時間(じかん)をかけて 形(かたち)を変(か)える 私(わたし)も そうなれるだろうか 一度(いちど)で強(つよ)くならなくても 何度(なんど)も寄(よ)せる波(なみ)の中(なか)で 少(すこ)しずつ 自分(じぶん)の輪郭(りんかく)を知(し)る 教室(きょうしつ)で 声(こえ)を上(あ)げられなかった日(ひ) みんなの答(こた)えに 合(あ)わせてしまった日(ひ) 境界線(きょうかいせん)は 昔(むかし)の山門(さんもん)だけに あるんじゃない 私(わたし)の心(こころ)にも 見(み)えない線(せん)が 引(ひ)かれている 【The Nineteen-Year-Old ― 124 BPM】 (歪んだギターが加わる) 【Singer A】 延暦十一年(えんりゃくじゅういちねん) 十九歳(じゅうきゅうさい)の青年(せいねん)が 室戸(むろと)の洞窟(どうくつ)へ 身(み)を置(お)いたと伝(つた)わる 御厨人窟(みくろど) 波(なみ)に削(けず)られた 暗(くら)い入口(いりぐち) 神明窟(しんめいくつ) 祈(いの)りを重(かさ)ねたとされる もうひとつの窟(いわや) 虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう) 記憶(きおく)と智慧(ちえ)を求(もと)め 何度(なんど)も 真言(しんごん)を唱(とな)える 誰(だれ)にも 未来(みらい)を保証(ほしょう)されず まだ 弘法大師(こうぼうだいし)でもなく ただ迷(まよ)いながら 答(こた)えを探(さが)す 十九歳(じゅうきゅうさい)の ひとりの人(ひと) 【Cave Free Time】 (拍子が消える) (ギターの残響と波音) 【Singer A】 洞窟(どうくつ)から 見(み)えたものは 空(そら) そして 海(うみ) 余計(よけい)なものが 何(なに)もない景色(けしき) だから 空海(くうかい) そう名乗(なの)ったと 伝(つた)わっている 空(そら)の広(ひろ)さと 海(うみ)の深(ふか)さを 自分(じぶん)の名前(なまえ)にする それはきっと 完成(かんせい)したからではなく これから 何者(なにもの)になるのか 自分(じぶん)で選(えら)んだ 最初(さいしょ)の一歩(いっぽ) 【Morning Star ― 134 BPM】 (ダブルキックが加わる) 【Singer A】 谷(たに)は 声(こえ)を返(かえ)し 海(うみ)は 波音(なみおと)を惜(お)しまない 空海(くうかい)が記(しる)した 修行(しゅぎょう)の記憶(きおく) 明星(みょうじょう)が現(あらわ)れ 光(ひかり)が 口(くち)へ入(はい)ったという 明星来影(みょうじょうらいえい) 夜(よる)を壊(こわ)すための 光(ひかり)ではなく 夜(よる)の中(なか)でも 進(すす)めることを知らせる光(ひかり) 怖(こわ)さが消(き)えたから 歩(ある)けたのではない 怖(こわ)さの向(む)こうに 確(たし)かめたい世界(せかい)が あったから 【Foundation ― 144 BPM】 (シンセサイザーが加わる) 【Singer A】 大同二年(だいどうにねん) 八百七年(はっぴゃくななねん) 唐(とう)から帰(かえ)った空海(くうかい)は 再(ふたた)び 室戸岬(むろとみさき)を訪(おとず)れ 虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)を 刻(きざ)んだと伝(つた)わる 室戸山(むろとざん) 明星院(みょうじょういん) 最御崎寺(ほつみさきじ) 東寺(ひがしでら)とも呼(よ)ばれた 土佐(とさ)最初(さいしょ)の札所(ふだしょ) 荒(あら)い海(うみ)を 背(せ)にするのではなく 荒(あら)い海(うみ)と 向(む)き合(あ)う場所(ばしょ) 【The Outside Voice ― 152 BPM】 (リードギターが加わる) 【Singer B】 境界(きょうかい)の外(そと)に立(た)った 女性(じょせい)たちは 何(なに)を思(おも)い 岬(みさき)を見上(みあ)げたのだろう 入(はい)れないから 祈(いの)りが浅(あさ)いのではない 近(ちか)づけないから 願(ねが)いが弱(よわ)いのではない 海(うみ)を越(こ)える風(かぜ)には 男(おとこ)も 女(おんな)も 肩書(かたが)きも 年齢(ねんれい)もない 声(こえ)は 門(もん)の前(まえ)で止(と)まらない 祈(いの)りは 引(ひ)かれた線(せん)を知らない 明治五年(めいじごねん) 千八百七十二年(せんはっぴゃくななじゅうにねん) 女人禁制(にょにんきんせい)は 解(と)かれた 閉(と)じていた道(みち)に 女性(じょせい)たちの足音(あしおと)が 重(かさ)なってゆく 【Present-Day Uniform ― 160 BPM】 (すべてのリズム楽器が加わる) 【Singer B】 制服(せいふく)の私(わたし)が 今(いま)ここで歌(うた)う まだ子(こ)どもだと 決(き)めつけられる日(ひ)も もう分(わ)かるでしょうと 急(せ)かされる日(ひ)もある 可愛(かわい)い声(こえ)は 弱(よわ)い声(こえ)じゃない 震(ふる)える声(こえ)も 消(き)える声(こえ)じゃない 昔(むかし) 岬(みさき)の先(さき)に置(お)かれた祈(いの)りを 今(いま) 本堂(ほんどう)へ届(とど)く歌(うた)にする 誰(だれ)かを責(せ)めるためではなく 次(つぎ)の境界線(きょうかいせん)を 残(のこ)さないために 【Bell Stone ― 168 BPM】 (金属的な石の音) 【Singer A】 境内(けいだい)に残(のこ)る 鐘石(かねいし) 小石(こいし)で打(う)てば 鐘(かね)のような音(おと)が 空(そら)へ響(ひび)く その音(おと)は 冥土(めいど)まで届(とど)くと伝(つた)わる 会(あ)えなくなった人(ひと) 名前(なまえ)の残(のこ)らなかった人(ひと) 境界(きょうかい)の外(そと)で 祈(いの)った人(ひと) 今(いま)を走(はし)る私(わたし)たち 遠(とお)く離(はな)れた時間(じかん)を ひとつの響(ひび)きが 貫(つらぬ)いてゆく 【Cape Ascent ― 176 BPM/4/4】 (全楽器) (二人はまだ別々の旋律) 【Singer A】 空(そら)は 誰(だれ)のものでもない 【Singer B】 海(うみ)も 誰(だれ)かを選(えら)ばない 【Singer A】 光(ひかり)は 閉(と)じた門(もん)を越(こ)える 【Singer B】 声(こえ)は 古(ふる)い境界(きょうかい)を越(こ)える 【Singer A】 最御崎寺(ほつみさきじ)から 見渡(みわた)す太平洋(たいへいよう) 【Singer B】 ここは旅(たび)の端(はし)ではなく 修行(しゅぎょう)の始(はじ)まり 【Final Eight Lines ― Only Full Harmony】 声(こえ)は、境界線(きょうかいせん)を越(こ)える 届(とど)かないと決(き)められた場所(ばしょ)へ 空(そら)と海(うみ)が出会(であ)う岬(みさき)から まだ名前(なまえ)のない私(わたし)を始(はじ)める 強(つよ)い声(こえ)も、可愛(かわい)い声(こえ)も 同(おな)じ未来(みらい)を選(えら)ぶ力(ちから) 最御崎寺(ほつみさきじ)、閉(と)じた線(せん)の向(む)こうへ 私(わたし)たちは、歌(うた)いながら越(こ)えてゆく 【Ocean Ending】 (全楽器が止まる) (ひとつの波が寄せる) (波が引く) (二人の呼吸)