
昔々の 物語 この地を巡る ひとりあり 雨の気配と 風の先 病の影を 見つけたり 治す術など 持たぬまま それでも人の そばにいて 見捨てぬために 宿を開き 祈りの火を 灯したと 村を離れて しのぐのでは 故郷のそば そのぬくもりで 声をなくした 人々を 静かに宿し 看取ったと 呪いと呼ばれ 曇りし宿に 祈りの響き まだ残る 人を人として 見送るための やさしき声が まだ残る 薬も命も 足らぬ中 せめてひとりで 死なせぬように 白き手をもて 触れながら 夜を越えては 祈ったと 薬の小瓶 朽ちた寝床 欠けた十字架 なお残り 見捨てぬための そのしるし 人のぬくもりの 残り火よ ここは誰かの 最後の宿り 故郷近く 眠るため 遠き道より 運ばれた 死の気配を 鎮めるため 呪いと呼ばれ 曇りし宿に 祈りの響き まだ残る 人を人として 見送るための やさしき声が まだ残る 病がやがて 静む頃 ひとりの影が 残された 救われし者の その代わり 最後の病を その身に受け 白き祈りを 胸に抱き 彼女は静かに 目を閉じた 呪いと呼ばれ 曇りし宿に 祈りの響き まだ残る 人を人として 見送るための やさしき声が まだ残る 呪いの名など 返しはしない 祈りの名をば 今返さん 痛みの夜を 分け合いながら 人を人として 見送りし そのやさしさを 忘れぬため この歌ここに 残し置く これぞ 名を取り戻す 歌

