
朝露はまだ消えず 風鈴の音 微かに揺れ 遠き空へ旅立ちし 君を想いて日を重ねる あの日 駅の片隅で 「すぐに帰る」と笑みし人 夏の陽射しの眩しさを 今も覚えておりまする 便りの文字を幾度も読み 擦り切れるまで抱きしめて 今日も変わらぬ朝なれば 帰る日を待ちわびる 青き空よ 君の姿を映したまへ 流るる雲よ その声を運びたまへ 蝉は変わらず鳴くけれど 世の色だけが移ろいて 遠く響くは鉄の音 胸の奥まで震わせる されど願いはただひとつ 無事に帰りてほしいだけ 縁側越しに見上ぐれば 雲ひとつなき夏の空 八月六日 朝の光は穏やかに いつもと変わらぬはずであり いつもと変わらぬはずだった 白き閃光 空を裂き 夏の青さは消え失せる 風は叫びに変わりゆき 影は言葉を失えり 名を呼べども届かなく 手を伸ばせども触れられず 約束だけが空に残り 夏だけがそこにあり もしも行かずとなかりせば 君は帰り 笑みあえたか もしもあの日がなかりせば 明日を語れたであろうか 見上ぐる空は今もなお あの日と同じ青なれど 帰らぬ人の願いだけ 静かに風へ溶けてゆく 風鈴ひとつ 揺れていた

