
自転車のベルが 夕暮れに鳴る 知らない名前で 私を呼んだ 振り向く先には 誰もいなくて 風だけ少し 古い匂い 錆びたハンドル きしむペダル 坂道の途中で 胸が揺れる 今の私じゃ ないはずなのに 返事をしそうな 声が残った チリンと鳴るたび 記憶の奥で 畳の部屋や 遠い海が見える 生まれる前の 忘れ物まで カゴの底から 転がり出した 自転車のベルが 前世を呼ぶ もう違うよと 言えないまま 知らない私が 私の中で 懐かしそうに 息をしてる 自転車のベルが 前世を呼ぶ でも戻りたい わけじゃない 借りてた名前を 風に返して 今の名前で 坂を下る 信号待ちでは 影が二つ 私の後ろで 並んでいた 昔の恋とか 小さな罪が スポークの隙間で 光って消える 怖いくらいに 懐かしいのは きっと今でも 続いてるから 終わった命の 残り火さえも 今日の私を 少し照らした 自転車のベルが 前世を呼ぶ もう違うよと 笑いながら それでもどこか 似ている癖で 同じ夕日を 見上げている 自転車のベルが 前世を呼ぶ だけど答えは 今の声で 置いてきた日々を 否定しないで 新しい道へ こぎ出していく チリンと鳴ったら 前世が笑う 大丈夫だよと 背中を押す 私は今日の ペダルを踏んで 知らない明日へ 走っていく

