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Event Horizon  (Japanese Edition)

【起】 私と彼は、あの新進気鋭の 量子研究所で 未来のゲートを弄ぶ 愚かな権力者たちの 背中を見ていた 「地上での量子ゲート展開は 自殺行為だ エルゴ球の制御限界を 超えれば 時空そのものが 地殻を引き裂く」 私たちが提示した設計図は 地球から遥か彼方 木星のラグランジュ点 万が一 量子崩壊が 熱暴走を起こし 微小ブラックホールが 生成されたとしても 木星という318倍の 絶対的重力場の スープに呑み込ませ シュヴァルツシルト半径ごと スリングショットで相殺・パージする ――それが 数式が導き出した 唯一の安全弁だった だが 彼らはコストと利権を優先し アラートを無視した その傲慢の代償は 青い大陸の頭上で 静かに そして不可逆的な カウントダウンを始めた 【承】 あの日 地上に顕現したそれは 完璧な終末の黒 制御を失ったゲートは 一時的に不安定な 人工ブラックホールを 網膜の裏に生成した 量子力学の予言 ――ホーキング放射は再現された その超小型の怪物は 凄まじい熱量と ガンマ線を放出しながら 僅か数十秒で「蒸発」し 大気圏へと霧散していった だが、その僅か数十秒の 質量ディストーションは ひとつの超大陸の地盤を マントルの深淵まで陥没させるには あまりにも十分すぎる Gの爪痕だった 一瞬の蒸発 しかし永久の喪失 地殻は砕け 海の底へと大陸が 引きずり込まれていく 阿鼻叫喚のなかで 彼は私を ごく僅かな女性科学者たちを 脱出ポッドへと押し込み ハッチを閉めた 【転】 ポッドが点火した瞬間 背後で爆縮する イベント・ホライズンの極限重力が 私たちの時空を捉えた アインシュタインの 相対性理論が肉体を呪う 強大な重力場は 時間の進みを 極限まで遅延させ 私たちのタイムラインは 細胞分裂のシグナルごと 「滅びのあの日」のままで 永久に固定された 同時に 地平線から漏れ出た 高エネルギーの量子照射は 私たちの生物学的組成を シリコン・セラミックへと 組成変換させる それは、二度と 子供を宿すことも 普通に老いて 土に還ることも 許されない 「完璧に若く 完璧に美しい異形の者」へと 人類を書き換える 物理法則が与えた一万年の呪い 【結】 彼の手を離れ 私だけが生き残ってしまった この一万年の生存の刑期 だが、私の胸のセルには あの日 事象の地平線に 触れた瞬間から、 蒸発しきれなかった微小な 「量子ゲートの特異点」が エラー終了を拒んで 今も脈動し続けている 仲間たちが一人 また一人と 内なる特異点の熱崩壊を 迎えて光に還るたび そのエネルギーの奔流が 地球の磁気圏を叩き 夜空にオーロラのシグナルを灯す 結婚を控えていた彼の無念も 海の底に沈んだ何百万の どうほうの生きたかった明日も すべてこのシリコンの 檻にパッキングして 私は最後の一日まで この呼吸を維持しなければならない [outro] いつか、私の内なる特異点も ホーキング放射の果てに蒸発し あなたの前で光の粒子へと還る その運命の朝が来るまでは――