
駅前のコンビニ 午前十時 缶コーヒー持って レジを出た 「おい、久しぶり」 振り向いたら 高校ん時の あいつだった スーツ姿が妙に似合って 左手には銀色のリング 「今、何してんの?」 「まあ、いろいろ」 それから少し考えて 「まだバンドやってんの?」 ……まだってなんだよ 別に嫌味じゃないのは分かる たぶん本当に聞いただけ 「すげえな、続いてんだ」 笑って肩を叩かれた 仕事の話 家の話 去年子どもが生まれた話 俺はと言えば 昨日のライブ 客が七人だった話 ……は、しなかった あいつの時計は ちゃんと進んで 俺の時計は 止まって見える そんな気がして 缶コーヒーを 意味もなく ひと口飲んだ まだバンドやってんの? ああ まだやってるよ 売れてないし 金もないし 客が七人の日もある まだバンドやってんの? ああ まだやってるよ やめる理由なら 百個あるけど 続ける理由は 三人で足りる 「じゃあ、またな」 手を振ったあと 駅へ向かう背中を見てた 別に羨ましくないなんて 言ったらたぶん嘘になる 家賃は三日遅れてる 車のガソリン半分以下 昨日のファミレスのレシート ポケットの中 丸まってる でもその裏に 次の曲の タイトルだけが 書いてある 正しい道が どれかなんて 今も全然 分からない ただ火曜日は スタジオだから ギターの弦を 買って帰ろう まだバンドやってんの? ああ まだやってるよ 上手くなったか 分からないし 相変わらず売れてない まだバンドやってんの? ああ まだやってるよ 胸を張るほど 何もないけど 隠すことでも ないだろう 「いつまでやるの?」 昔なら 答えを探した 今なら たぶん こう言う 知らねえよ まだバンドやってんの? ああ まだやってるよ 八畳一間も 十二枚も 七人の夜も越えてきた まだバンドやってんの? ああ まだやってるよ いつまでなんて 知らないけれど 次のスタジオは 火曜日だ まだバンドやってんの? ……やってるよ ©️ytsgax

