
Title:さくらひとひら ©2026 AriteAL (ありてある) 📌 フルMV公開中|YouTubeご覧ください。🎧 Full MV out now on YouTube🌟 🌟🎞youtu.be/7yPqLjyyf9E 🎧 Short MV out now on Hook 🌟🎞https://suno.com/s/PVyR84VVCA4FMB50 −−Please look below for the English lyrics.−− −−イメージストーリーは最後に書きました−− #Event [🌸#桜は締め切りました🌸] https://suno.com/s/8T0dMXhTFzUG1NMY 🌸桜祭り投稿フォーム🌸 https://suno.com/s/YyOZA86lHF2VujoS 🌸PlayList🌸 https://suno.com/playlist/5ad8a42d-2bd5-4cf7-a6e7-ffde2992bb2a [🌟🌟🌟 Japanese Lyrics 🌟🌟🌟] [comment] 『さくらひとひら』は、失くした季節をもう一度手のひらに取り戻そうとする物語です。 日常のカフェに舞い込む一枚の花びらは、誰の胸にも残る小さな欠けを映し出します。 忙しさのなかで見過ごしてしまった感情、終わらせたはずの春。その気配にもう一度触れ直すことに似ています。 私たちは、失われた時間をどのように受け止めて生きていくのか。 その静かな問いを抱えながら、誰かのために一歩を踏み出す優しさの価値をそっと照らします。 ひとひらの桜は、忘れていた感情を呼び戻す、小さくも確かな合図なのです。 イベントを開催していただいた桜子さんに感謝を込めて。 [歌詞 / lyrics] [Verse 1] 午後三時 カウンター ゆげの向こうで 笑い声ほどけ ドアベルひとつ 空気ごと変わった [Pre-Chorus 1] 古い栞が すべり込んだら 春が終われぬ 目だけで語る 温度 純度 春の色さえ測れず 指先だけが冬を置いていく [Chorus 1] ひとひら 手のひらに落ちて 逃げる春 追うほど ほどける 香りのしるし One more cup って 言い訳して Run and run ひとひら 行方不明の季節へ 珈琲が冷める前に 取りにいく [Post-Chorus] 風だけが カウンターをよこ切って [Verse 2] オシバナなぞる 指でおしはかる 触れたはずなのに 熱だけ逃げる 「知ってる」呼吸で 空気が止まる [Pre-Chorus 2] 保証とか 値札みたいな言葉は棚へ それでいい その一言で カップが揺れた 失くしたまんま 取り戻すなんて ちぐはぐなまんま 飲み干してしまえ [Chorus 2] ひとひら 手のひらに落ちて 逃げる春 追うほど ほどける 香りのしるし One more cup って 言い訳して Run and run ひとひら 落ちた場所まで 風をたどれ 珈琲の香りよ 道しるべになれ ひとひら [Bridge] あまい にがい ぬるい 冷たい 順番なんて だれが決めた 物語なら ここで救いが来る 来ないからこそ 私が行く [Build] One breath Turn the key Open the door [Final Chorus] ひとひら 手のひらに落ちて 逃げる春 追うほど ほどける 香りのしるし One more cup って 言い訳して Run and run ひとひら 行方不明の季節へ 珈琲が冷める前に ひとひら 嘘じゃなかった ちゃんとここにある ひと匙ぶんの春を ひと息で まだ終われない ひとひらを この手で届ける 季節を越えて 珈琲の香りが きみの春をほどく ひとひら [Outro] 風のなごり [🌟🌟🌟 English🌟🌟🌟] Sakura Hitohira is a story about trying to hold a lost season in your hands once again. A single cherry blossom petal drifting into an ordinary café reflects the small emptiness that lingers in every heart. It feels like reconnecting with emotions we overlooked in the rush of daily life, and with a spring we thought we had already left behind. How do we carry lost time with us and keep moving forward? Holding that quiet question at its center, Sakura Hitohira gently illuminates the value of taking a step forward for someone else. A lone cherry blossom petal becomes a small yet certain sign, calling back feelings we had forgotten. With heartfelt thanks to Sakurako for organizing this event. [🌟🌟🌟 Lyrics 🌟🌟🌟 ] [Verse 1] Three o'clock, the counter Through the steam a laugh comes undone One doorbell and the air itself has changed [Pre-Chorus 1] An old bookmark slips between the pages Spring won't break, your eyes say all the rest Warmth and weight and shades I cannot measure Only fingertips still carry winter [Chorus 1] Petal Falling to my palm, spring runs away Chase it more, it fades, a ghost of fragrance One more cup, I say Just an excuse to run and run Petal Into the missing season Before the coffee cools I'll go and find it [Post-Chorus] Only the wind cuts across the counter [Verse 2] Tracing pressed flowers, guessing with my fingers I know I touched you but the heat slipped out One breath of "I know" and the air stands still [Pre-Chorus 2] Guarantees and price tags, shelve those pretty words now "That's enough," one phrase and the cup trembles Lost and never coming back the same way Broken, mismatched, drink it all regardless [Chorus 2] Petal Falling to my palm, spring runs away Chase it more, it fades, a ghost of fragrance One more cup, I say Just an excuse to run and run Petal Follow where it fell and trace the wind back Let the scent of coffee be my compass Petal [Bridge] Sweet and bitter, lukewarm, cold Who decided on the order? In a story, rescue finds you here It won't come, so I will go [Build] One breath Turn the key Open the door [Final Chorus] Petal Falling to my palm, spring runs away Chase it more, it fades, a ghost of fragrance One more cup, I say Just an excuse to run and run Petal Into the missing season Before the coffee cools Petal It wasn't a lie, it's really here One spoonful of spring in a single breath It's not over yet This petal I'll carry it across the seasons now The scent of coffee melts your frozen spring Petal [Outro] An echo of the wind [🌟🌟🌟Image Story🌟🌟🌟] 第一話 湯気 その店には看板がなかった。 川沿いの桜並木をずっと歩いていくと道が細くなって、細くなった先で行き止まりになって、行き止まりの突き当たりに磨りガラスの引き戸がある。それだけ。屋号も営業時間も書かれていない。ただ軒先に桜の老木が一本、枝を屋根の上まで伸ばしていて、四月の上旬だからまだ三分咲きで、蕾のほうが多いその枝ぶりが唯一の目印みたいに見えた。 看板がない店に入るのは勇気がいる。 いや、勇気というほど大げさなものでもない。知らない店に入るとき人間の脳が処理する情報量はおよそ……いやそういう話ではなくて、要するに私は引き戸の前で三十秒ほど立ち止まっていた。磨りガラスの向こうに人影がひとつ動いているのが見えた。輪郭だけ。色だけ。薄桃色の何かが、ガラスの向こうでゆっくり動いている。 引き戸を開けた。 真鍮のベルが鳴った。思ったより高い音で、思ったより長く残った。あとで知ることになるのだが、あのベルの残響がやたら長いのは天井が高いせいだ。築六十年の木造二階建てで、二階の床を抜いて吹き抜けにしてある。だからベルの音は二階分の高さを昇っていって、梁に当たって、降りてくる。 でもそのときの私はまだ天井を見ていない。 見ていたのは湯気だった。 カウンターの向こうに湯気が立っていた。ケトルの注ぎ口から細く、まっすぐ、天井に向かって一本の線のように立ち昇っている。午後三時の陽がちょうど窓から差し込んでいて、その光の帯を湯気が横切るところだけが白く光って見えた。光を通過する前と後では、湯気は透明だった。 その湯気の向こう側に人がいた。 桜の着物。黒い髪。顔は湯気と逆光のせいでよく見えなかった。見えたのは、着物の袖が腕に沿って落ちていく線と、カウンターの向こうで緑の服の髭の男と何か話している声だけだった。 「満開って、年によって全然違うから」 髭の男の声。低くて、角が丸い。 「去年はもう咲いてましたよね、この時期」 桜の着物の声。私はここでようやく、声というものを聞いた。高くはない。低くもない。温度でいうなら。いや温度で声を測るな。測るなと自分に言い聞かせている時点で、もう測っている。 「去年は早かった。三月のうちに満開だったろう」 「でしたね。お花見の人がまだ来てないのに散っちゃって」 「あれは桜が悪い」 「桜のせいにしないでください」 笑い声が聞こえた。二人ぶん。片方は髭の男の、腹の底から出る短い笑い。もう片方のほうを私はうまく記述できない。声はベルの音と同じで吹き抜けの天井を昇っていった、とだけ書いておく。 カウンターの端に座った。 五つある椅子の、入口に一番近い席。つまりあの二人から一番遠い席。椅子に座って、カウンターの木目を見た。欅か楢かわからないけれど、長い時間をかけて人の肘が磨いた光沢があった。その時間の上に自分の腕を置いた。 「ご注文は」 声が来た。近い。さっき髭の男と話していたときより近い。当たり前だ、私はカウンターの客で、注文を聞かれているのだから。当たり前のことに驚いている自分がおかしかった。 「珈琲を」 「ブレンドと、本日のシングルオリジンがありますが」 「……どちらがお好きですか」 と私は言った。言ってから、客が店の人間に好みを聞くというのは質問の方向が逆だと気づいた。気づいたが、言ったものは戻せない。 「今日のシングルは、すこし変わった味がします」 変わった味。何だそれは。何の説明にもなっていない。なっていないのに、私は「ではそれを」と答えた。変わった味が飲みたかったのではない。この人が「変わった」と感じるものが何なのかを知りたかった。 珈琲が出てきた。 白い陶器のカップ。カウンターの上を滑るように私のほうへ来た。出してくれた手を見た。着物の袖口から伸びた手。指が細く、爪が短い。それだけ見て、それ以上は見られなかった。 一口飲んだ。 苦い。それからすぐに、舌の横を酸味がすうっと通過した。通過したあとの場所に甘みが残った。不思議だった。苦味は最初にいて最初にいなくなり、酸味は通り抜けるだけ通り抜けて消え、最後に甘みだけが残った。先に来た客から順に帰って、遅れてきた甘みだけが席に残っているような。 「変わってるでしょう」 声がした。不意に近くて、顔を上げた。カウンターの向こうに桜の着物の人が立っていた。湯気はもう出ていなかった。つまりフィルターがなかった。顔が見えるはずだった。 見えるはずだったのだが、そのとき窓から差す光がちょうど角度を変えて、午後三時の陽が直接私の目に入った。眩しさに目を細めた一瞬で、桜の着物の人はもう背を向けて棚の何かを取っていた。 「変わってます」 私は珈琲の感想として答えた。そういう質問だったのだから。そういう質問だった。 「エチオピアのナチュラルで、発酵がすこし長いんです。好き嫌い分かれますけど」 「好きです」 「よかった」 会話が終わった。三往復で終わった。カウンターの反対端で髭の男が新聞を広げたまま、こちらを見ていた気がした。気がしただけで、確認はしなかった。 二口目を飲んだ。甘みの残り方が一口目と違った。温度が一度か二度下がっただけで、味の順番が変わる。同じ液体を同じ口で飲んでいるのに、一回ごとに別のものになっていく。 窓の外を見た。 三分咲きの桜が見えた。蕾が膨らんでいて、あと数日で開きそうだった。あと数日経てばこの窓の外は全部桜になる。 髭の男が先に帰った。カウンターに何か小さなものを置いた。四角い紙。名刺のようだった。裏返しに置かれていて、表は見えなかった。桜の着物の人がそれを見て、「またあした」と言った。 「明日は来んよ。明後日」 「じゃあ明後日」 引き戸が開いて、閉まって、ベルが鳴った。 カウンターに私と桜の着物の人だけが残った。二人きりの空間はたぶん三秒くらいで、すぐに別の客が入ってきたベルの音で終わった。 でもその三秒のあいだ、店の中はさっきまでとはまるで違う温度になった。何がどう違うと聞かれても困る。珈琲はただ冷めていくだけだし、四月の室温は午後三時から四時にかけてそう変わらない。 変わったのは温度ではない何かで、その何かの名前を私はまだ知らない。 カップの珈琲を飲み干した。底に残った最後の一口は、すっかり冷めていて、苦味も酸味も消えて、甘みだけが濃く残っていた。 帰り際に、引き戸を開けながら振り返った。 桜の着物の人が新しい客に珈琲を出していた。さっき私に出してくれたのと同じ白い陶器のカップ。同じ湯気。同じ袖口。 同じだ、と思った。 同じなのだから私だけの何かではない。当たり前のことだった。当たり前のことがなぜか路地を歩いている間ずっと引っかかっていて、桜並木に出て川沿いを戻るころにはその引っかかりの正体がわかった。 同じ珈琲を出されたことではなく、同じ「変わってるでしょう」をあの新しい客にも言うのだろうか、ということのほうが気になっていた。 満開になったら来ようと思った。 珈琲が美味しかったから。

