
[Intro] 静かな声が 時を越えて [Verse 1] 光の届かない 古い場所で 誰かの言葉を 見つけた 名前も 顔も知らない それなのに なぜか近くて 遠い昔が 今この瞬間 隣に 立っているような [Pre-Chorus] 遠い過去の 記憶が ひとつの言葉で 息をする [Chorus] 砂の下で 眠っていた 声が響く つながるはずのない 記憶の向こう 知らなかったことが 少しずつ 目を覚ましてゆく [Verse 2] 同じ言葉 同じ想い でも 違う時間 遠いはずの その人が ふいに 近く見えた ひとりで 迷ったことも 嫌になって 笑ったことも 英雄じゃない ひとりの誰かが ここに いたしるし [Pre-Chorus] もしも時間が 同じじゃないなら 僕らの距離は どれくらいだろう [Chorus] 時を越えて 残された 小さな声 忘れられた 記憶が開く 信じていた ものさえも 本当の 一部でしかないなら [Break] [Bridge] 守るために 残した言葉 進むために 受け継いだ願い どちらも 間違いじゃない だからこそ 分からなくなる 何を守って 何を選んで その先で 何を 失うの [Final Chorus] 砂の下で 時を越えて まだ響いてる 今の僕らへ つながってゆく 答えを 急がなくていい ただ 忘れないように この言葉を 連れてゆこう [Outro] 静かな声が 時を越えて Buried Words 【Episode Story】 【第11話・Buried Words】 砂の下から現れた石段は、暗い場所へ向かって続いていた。主人公は入口の前に立ち、もう一度その奥を覗き込む。先ほどまで視界に浮かんでいた文字は、すでに消えている。 だが、見間違いではない。 スキル「Overtake」 特殊対象を検知 同期可能対象:UNKNOWN アルカの印を見つけた時と同じ反応だった。 「……やっぱり、この下だと思う。」 巫女も石段を覗き込む。 「Overtakeの反応ですね?」 「うん。アルカの時とかなり似てた。」 砂守の少女も暗い階段を見る。 「入る?」 「そのつもりだけど……。」 主人公の視線が、砂守の少女の持つ古い本へ移る。 「その本、本当に持ってきて大丈夫だった?」 「あとで返す。」 「まだそれで押し切るんだ。」 「返せばなくならない。」 「本はね。」 砂守の少女が少し考える。 「……じいちゃんには怒られるかも。」 「そこは分かってるんだ。」 巫女が小さく笑う。 「帰ったら、一緒に謝りましょう。」 「うん。」 「僕も?」 「一緒。」 「なんで僕まで。」 「三人で来たから。」 「そういう問題かな……。」 少しだけ緊張が和らいだ。 「まあ、それは無事に戻ってから考えよう。」 巫女が杖を握り直す。 「何があるか分かりません。離れすぎないように進みましょう。」 三人は石段を下り始めた。 数十段も進むと、外の光はほとんど届かなくなる。巫女が杖を掲げると、先端に淡い光が灯った。古びた石壁には風や砂を思わせる模様が刻まれ、細かな亀裂が走っている。 やがて石段が終わり、細い回廊へ出た。主人公がふと上を見る。 「ん?これ……もしかして窓じゃない?」 壁の高い場所に四角い穴がある。三人で近づくと、その向こうには空ではなく、砂がびっしりと詰まっていた。 砂守の少女が手を伸ばす。 「向こう、全部砂。」 「ってことは、ここ、最初から地下だったわけじゃない?」 「確かに、地下の窓には見えませんね。」 主人公は周囲を見回す。 「建物ごと埋まったってことか……。」 「時間があれば埋まる。」 「何百年とか?」 「もっと。」 巫女が静かに呟く。 「千年前には、まだ地上にあったのかもしれませんね。」 「勇者たちが来た頃?」 「はい。」 今は砂の下に沈んでいる。けれど千年前、この窓の外には砂漠と空が広がっていたのかもしれない。 「なんか、不思議だな。」 「何がですか?」 「同じ場所なのに、今とは全然違う景色だったんだろうなって。」 「なにしろ千年ですからね。」 三人は再び進む。 回廊の先には大きな広間があった。何本もの石柱が並び、その半分は砂に埋もれている。崩れた天井から細い光が差し込み、砂埃がゆっくり舞っていた。 「……すごい。」 「神殿のような場所だったのでしょうか。」 「祭壇っぽいものもあるね。」 砂守の少女は古い本を開き、地図と周囲を見比べる。 「ここ。」 「この広間?」 「たぶん。」 「また、たぶん。」 「古いから。」 「あー、ごめん。たしかに。」 砂守の少女が奥を指す。 「道はあっち。」 三人が進もうとした時、巫女が足を止めた。 「……これは何でしょう?」 石壁の一角に、遺跡の装飾とは違う細かな線が並んでいる。 「文字……でしょうか。でも、私の知っているものとは違います。」 「これ、なんだ?」 砂守の少女も覗き込む。 「私も見たことがありません。模様のようにも見えますが……。」 「模様?」 主人公が二人の間から壁を見る。 そして、動きが止まった。 『一日目。出口が砂で埋まった。』 「……え?」 あまりにも自然に意味が頭へ入ってきた。主人公は一度目を逸らし、もう一度見る。砂守の少女が主人公を見る。 「読める?」 主人公は壁から目を離さない。全部分かる。というより――。分からないはずがない。子供の頃から見てきた。家でも。学校でも。駅でも。仕事でも。この世界へ来る直前まで、当たり前すぎて存在を意識することすらなかった文字。それが。千年もの間、砂に埋もれていた異世界の遺跡の壁に刻まれている。主人公の声が震える。 「……嘘だろ。これ……。」 巫女が主人公の顔を見る。 「これは?」 主人公はようやく二人を見る。 「日本語だ!」 「ニホンゴ?」 「僕のいた国の文字だよ!」 「あなたの世界の!?」 「うん!」 砂守の少女も壁を見る。 「これが?」 主人公は頷く。 「うん。間違いない。漢字も、ひらがなも……全部読める。」 言葉にした途端、驚きの中に強い違和感が混じった。 「……でも、なんでここに日本語があるんだ?」 この世界の、しかも千年以上砂に埋もれていた遺跡に、自分の世界の国の文字がある。 「誰が書いたんだ……。」 主人公は周囲の文字を追った。 『二日目。まだ出られない。水はなんとかなってる。あいつには頭が上がらない。』 さらに先。 『三日目。砂はもう見飽きた。』 砂守の少女が尋ねる。 「なんて書いてある?」 「『砂はもう見飽きた』って。」 「なんか普通。」 「……普通だね。」 主人公は少し笑った。けれど、普通だからこそ奇妙だった。誰かがここで閉じ込められ、水を心配し、砂に飽き、そのことを日本語で残した。 巫女が壁を見ながら言う。 「あなたより前にも、あなたの世界から来た人がいた……ということでしょうか?」 「そうとしか思えないけど……。」 主人公はふと黙り込む。 この遺跡。五つの印。千年前。そして――。 「……待って。千年前にも、異世界から来た人がいたよね。」 「あっ!まさか勇者様……?」 主人公は壁へ目を戻す。 「この遺跡、少なくとも千年前にはあったんだよね。」 「はい。」 「その頃、この世界に来た異世界人がいた。それが勇者で……。」 主人公はもう一度、日本語を見る。 「もしかしてこれ……その勇者が書いたんじゃないか?」 三人の間に沈黙が落ちた。 主人公は改めて文字を見る。 「……本当にいたんだ。」 「勇者様が?」 「いや……うん、それもそうなんだけど。」 主人公は小さく首を振った。 「僕と同じ場所から来た人が、本当にこの世界にいたんだ。」 伝承の中にしかいなかった人物が、急に一人の人間として近づいてきた。砂に飽き、出られないと愚痴をこぼし、水の心配をしていた。 「なんか……すごいな。」 巫女が主人公の横顔を見る。 「……少し、嬉しそうですね。」 「そう見える?」 「はい。」 「嬉しいっていうか……ずっと、自分だけだと思ってたから。」 主人公は日本語を見つめる。 「勇者が異世界から来たって話は聞いた。でも、どこか昔話みたいだったんだ。こうして自分の知ってる文字を見ると、本当にここにいたんだって思う。」 巫女はそれを聞いて、静かに微笑んだ。 主人公はさらに壁を探し、別の文章を見つけた。 『こっちの文字はまだ書けない。独り言くらい日本語で残す。』 「……ん?」 「今度は何と?」 「この人、こっちの世界の文字はまだ書けなかったみたい。」 「勇者様が?」 「うん。そう書いてある。」 巫女は少し驚き、すぐに何かへ気づいた。 「え、でも……あなたは違いますよね。」 「僕?」 「はい。初めてお会いした時から、普通に私たちの言葉を話していました。それに文字も。」 主人公は黙った。 「……そうだ。」 砂守の少女が二人を見る。 「最初から?」 「うん。」 「覚えたんじゃなくて?」 「全然。この世界に来るまで、こっちの言葉なんて存在すら知らなかった。」 「じゃあ、なんで話せるの?」 「それが分からない。最初からなんだ。」 話しかけられれば意味が分かった。看板も読めた。文字もなぜか書けた。あまりに自然だったから、深く考えずにここまで来てしまった。 巫女が言う。 「以前、Overtakeと関係があるのではないかと話しましたよね。」 「うん。でも結局、何も分からなかったけどね。」 主人公は壁を見る。 「でも、この勇者は違った。少なくともこの頃は、この世界の文字を使えなかった。」 「では……勇者様とあなたでは、こちらへ来た時に起きたことが違うのかもしれませんね。」 「……そうかも。」 主人公は自分の手を見る。 「だとしたら、僕が言葉を分かるのにも、ちゃんと何か理由があるってことか。」 そしてもう一度、日本語へ目を向ける。 「……待って。」 「今度は何ですか?」 「この日本語……ちょっと変だ。」 主人公は最初の文章へ戻る。 『一日目。出口が砂で埋まった。』 『砂はもう見飽きた。』 「勇者がいたのって、こっちでは千年前なんだよね?」 「そう伝わっていますが…。」 「僕の世界にも千年前の文章は残ってる。でも、こんなふうには読めないんだ!」 砂守の少女が首を傾げる。 「読めない?」 「僕の国には古文っていう昔の言葉があってさ。同じ日本語なんだけど、今とは言葉も言い回しも違う。学校で習ったけど、正直、説明がないと分からないものも多かったんだ。」 「では、これは?」 「普通に読める。今の僕が書いてても、ほとんど違和感がない。」 砂守の少女が壁を見る。 「じゃあ、千年前じゃない?」 「でも、この世界では千年前なんだよ。」 口にした瞬間、主人公自身が止まった。 「……この世界では。」 巫女も、その言葉を繰り返す。少し考えてから、ゆっくり言った。 「勇者様がこちらへ来たのが千年前でも……あなたの世界でも同じだけ時間が経っているとは限らないのでしょうか。」 「……え?」 「私にも分かりません。ただ……同じ速さで時間が進んでいる、と決めつける理由もないのかなと。」 主人公は壁を見る。 異世界の千年前。だから日本でも千年前。いつの間にか、何の疑いもなくそう考えていた。 「……確かに。時間が同じだなんて証拠はない!」 「では?」 「同じじゃない可能性もある、ってことか…。」 「時間が違う?」 砂守の少女の問いに、主人公は少し迷う。 「例えばだけど、こっちで千年経ってても、日本では数十年しか経ってないとか。」 「数十年?」 「うん。僕が生まれる少し前とか、親や祖父母の世代とか。」 巫女が尋ねる。 「それなら、この文字が読めることにも説明がつくのですか?」 「たぶん。数十年前の日本語なら、僕でも普通に読めると思う。」 砂守の少女がぽつりと言う。 「なんか、変。」 「うん。僕もそう思う。」 主人公は苦笑する。 「でも、まだそうだと決まったわけじゃないけどね。」 「一つの可能性、ですね。」 「うん。」 主人公はそれ以上、答えを決めつけなかった。 ただ、千年前の伝説の勇者が、急に自分から遠くない時代の日本人に思えてきた。もしかしたら日本のどこかで、学校へ行き、仕事をし、自分と同じような毎日を送っていた人なのかもしれない。 「……会ってみたかったな。」 「勇者様に?」 「うん。どうやってこっちに来たのか、最初どうしてたのか、魔力はあったのか……聞きたいことがいっぱい出てきた。」 巫女も微笑む。 「それなら私も、初代巫女様にお会いしてみたいです。」 「何聞くの?」 「勇者様が、本当に伝承通りの立派な方だったのかを。」 「ここでは砂に飽きてるけどね。」 砂守の少女が壁を見る。 「普通の人だったのかも。」 「それはありそう。」 三人が少し笑う。千年前が、ほんの少しだけ近づいた気がした。 だが、主人公がさらに先の文字を見つけた瞬間、笑みが消えた。 そこだけ、他より深く、強く刻まれている。 『印を守るため、この先には近づくな。』 その下にもう一行。 『五つの印が揃う時、失うものを忘れるな。』 「……。」 巫女が主人公の表情を見る。 「何が書いてあるのですか?」 主人公はゆっくり読み上げる。 「『印を守るため、この先には近づくな』。」 「……近づくな。」 砂守の少女の声が低くなる。 「じいちゃんが言ってることと同じ…。」 「うん。それと……『五つの印が揃う時、失うものを忘れるな』。」 空気が変わった。 「これ、じいちゃん知ってたのかな。」 「この日本語は読めないと思う。でも、昔ここに来た誰かに意味だけ伝わって、それが残ったとか……。」 巫女が静かに壁を見る。 「長い年月の中で、『印を守るため』という部分が失われて、『近づいてはいけない』という教えだけが砂守の民に残ったのかもしれませんね。」 砂守の少女はしばらく黙っていた。 「じゃあ……じいちゃん、理由は分からなくても守ってきたんだ。」 「たぶんね。意味が分からなくなっても、大事なことだけは残ってたんだと思う。」 巫女はもう一つの文章を見つめる。 「五つの印が揃う時……失うもの。」 「何のことだろう?」 「私の家には、そのような言葉は残っていませんでした。」 「五つの印を修復する。それだけ?」 「はい。少なくとも、私が知る記録では…。」 砂守の少女が言う。 「こっちは、近づくな。」 「なんか真逆に見えるな……。」 巫女は少し考える。 「でも、どちらかが間違っているとは限らないのかもしれません。」 「どういうこと?」 「私の家には『修復する』という役目が残った。砂守の民には『近づかせない』という役目が残った。」 巫女は壁を見る。 「本当は一つだったものが、千年の間に別々の形で残ったのではないでしょうか。」 主人公は少し黙る。 「理由が抜け落ちて、役目だけ残った……。」 「はい。」 「じいちゃんも知らない…。」 「たぶんね。」 主人公は奥の通路を見る。Overtakeの反応はこの先だ。だが、その直前に勇者本人が残したと思われる警告がある。 主人公はしばらく考え、息を吐いた。 「……一度戻ろう。」 「行かない?」 「今はね。これを見た後で、そのまま進むのは違うと思う。」 「私も賛成です。」 砂守の少女は奥を見たが、やがて頷く。 「分かった。」 「おじいさんにも、もう一回話を聞こう。」 砂守の少女の表情が曇った。 「何その顔。」 「……本。」 「ああ。まあ、それは怒られるよね。」 「一緒に謝って…。」 「だからなんで僕まで。」 「私も一緒に謝りますよ。」 「ありがとう。」 「巫女さん、巫女さん、甘やかしてませんか?」 「ふふ、そんなことありませんよ。」 三人が軽く笑い、来た道へ戻ろうとした。 その時だった。 ――ザァ…… 何かが流れる音。砂守の少女の表情が一瞬で変わる。 「止まって!」 「何?」 広間の端。風もないのに、溜まっていた砂が一か所へ集まり始めていた。 巫女が杖を構える。 「これは……。」 砂が盛り上がり、一度崩れ、また集まる。 やがて黒いものが現れた。 一本、二本、四本。 巨大な四足獣が、砂の中からゆっくり姿を作っていく。頭部は黒い岩の仮面のように硬く、胴体も岩の外皮に覆われている。だが身体の輪郭は絶えず崩れ、肩からこぼれた砂が地面を這って再び身体へ戻っていく。 主人公が剣へ手を伸ばす。 「……何だ、あれ。」 「知らない。」 「この辺の魔物じゃない?」 「見たことない。」 巫女が目を細める。 「この感じ……。」 「何か分かる?」 「グラウガと対峙した時に似ています…!」 「まさか……。」 その瞬間、視界に文字が浮かぶ。 ユニークスキルを発動します スキル「Overtake」 対象:災印獣 ヴァルザ 同期開始…… 主人公は息を呑む。 「……災印獣!」 「Overtakeの分析ですか!?」 「ああ!」 主人公は剣を抜く。 「災印獣……ヴァルザ!」 砂守の少女もナイフを抜き、巫女が杖を構える。ヴァルザの身体から、また砂が流れ落ちる。 「グラウガと同じ災印獣みたいだけど……見た感じ、全然違う!」 ヴァルザが低く唸った。その声に呼応するように、広間の砂がざわめく。 次の瞬間――! ヴァルザが地面を蹴った。 「来る!」 主人公は剣を握りしめ、一歩前へ出る。 千年前の勇者が「近づくな」と残した遺跡。 そして今、新たな災印獣との戦いが始まろうとしていた――。


