
宵蛍
[Intro] 今宵も 月が よう照りますこと ……あなたも 御覧でしょうか [Verse 1] 暮れゆく庭に 風ひとつ 袖に忍ばす 月の影 「昔から月が好きだったね」と あなたは静かに 笑われる ええ そうでした ずっと昔から そう申し上げて わたくしも笑う 何ひとつ 偽りではないのです [Pre-Chorus] この手を包む ぬくもりも 重ねた春も 秋の日も 愛しゅうございます 愛しゅうございます それなのに 月だけが 昔を知っている [Chorus] 鳴かぬ蛍が 身を焦がす 声にもならぬ 心恋 忘れたのでは ございません 忘れぬと決めた わけでもない 満ちた月ほど 影は濃く 幸せなほど 胸が痛む どうか今宵も お健やかに それだけを 月へ言祝ぐ [Verse 2] まだ名を呼ぶのも 憚られ 目を合わせるさえ 罪のころ 寂しき夜には 月を見よ 遠く離れて おりましょうとも 同じ月なら 見られますから あなたがくれた たった一つの言の葉を 愚かな娘は 宝にしました [Pre-Chorus 2] あれは祝言 前の宵 生まれて初めて 背きました 「どうか わたくしを――」 その先だけは 今も月にも申しませぬ あなたは長く 目を伏せて ただひとこと 「なりません」 ……それだけでした [Chorus] 待宵過ぎれば 朝が来る 来ぬ人を待った 夜も明ける 白き衣に 身を包み わたくしは他家へ 嫁ぎました 恨みましたか いいえ 憎みましたか いいえ ただあの時だけ 共に愚かに なってほしかった [Bridge] もしもあの日 あなたが手を取れば 今のわたくしは ここにはおりません この家も この人も 笑い合った幾年も 知らずにいたのでしょう だから あれでよかったのです きっと あれでよかった ……けれど 行きたかった あなたと [Quiet Chorus] 鳴かぬ蛍が 身を焦がす 消えたと思えば また灯る 若き日の恋は 蛍火で 捕らえればきっと 死んだでしょう だからあの夜 離したことを 今では少し わかるのです わかるからこそ なお 恋しい [Final Chorus] 愛されながら 月を見る 満たされながら 面影を見る この方を愛して おりまする それさえ嘘では ございませぬ 二つの真を 抱くことを 罪と呼ぶなら 罰も受けましょう されどあなたを 奪いもせず この人を 裏切りもせず 胸の小箱に しまうだけ [Outro] 「冷えてきたよ そろそろ中へお入り」 背に掛けられた 羽織には 変わらぬあなたの 香りがする 「ええ 参ります」 振り返る前に もう一度だけ 月を見上げる 今宵の月も 綺麗でございますね ……あなたも 御覧でしょうか 鳴かぬ蛍が 身を焦がす

