
透明な蓋の向こう 低い音だけ回ってる 氷のほどけたコーヒー 裸足のままで眺めてる 材料までは入れてやった あとは勝手に仕上がればいい 片手に余ったリモコン 沈むほど部屋が近くなる 短い通知が鳴る できたらしい なのに最後の一歩だけ まだ俺を呼んでる 「……ここまで来て手動か」 一度だけなら動いてもいい 二度目がないようにするために 立つより先に設定を開く 残った一秒を書き換える 任せられるなら任せればいい 同じ手間なら消しておけばいい 今夜の欠けた処理だけまだ手動のまま 売り場の白い明かり 隣にいた声を思い出す 便利だとか 味はどうとか それだけだったはずなのに 何か言われると思っていた けれど何も否定されなかった 閉じた履歴の奥のほうで 短い言葉が残っている デリートした ミュートもした スリープにして 画面を閉じた それでもあの日の短い声が バックグラウンドでまだ動く 処理中のままで構わない 答えは今夜いらない 今すぐ立つ理由はない 冷めるなら後で温めればいい 整えられるものから整える 残ったものは保留でいい 明日の俺が動かずに済むよう 今夜の俺が少しだけ組む 止められない声はそのままで この部屋だけ先へ進める 設定完了... 通知はひとつ... 料理の匂いがまだ部屋にいる 「……次は 取り出すところから」

