
グラスのなかで 氷が痩せて 輪郭だけが 水に還る 調律の狂った ピアノの隙間から こぼれ落ちてくる 午後の微熱 名づけられない 波長のまま 皮膚と皮膚が 触れあうたび 同じ温度で 平熱になる あなたが吐き出した 冷たい影を わたしの肺が 吸い込んでゆく 二つの呼吸が ひとつの波になる 水彩のパレットに 落としたインク どちらの青かも もう知らなくていい ただ 薄まってゆく 満ちては引いてく 重力の手をほどいて 底のない浅瀬へ 沈んでゆく 透きとおるほどに 濁ってゆく それが二つの 祈りの形なら 意味はいらない 形もいらない 波にさらわれた 白い泡のように 境界線が ほどけて消える 触れていたのは あなたの指か それとも世界の 裂け目だったのか 逆相のノイズが 重なり合って 完全な静寂を 作っている 満ちては引いてく この透明な傷口へ あなたという名の 深みへ堕ちる 失うことさえ 赦されている 私たちは ひとつの器 混ざりあって ただ 混ざりあって 夜の終わりまで 波紋を描く ただの水に、戻るだけ

