
藍色の夏 「君には何も言えなかった。 ただ、君と同じ未来を夢見ていた。」 彼は彼女と別れたかったわけじゃない。 ただ、同じ夢を分かち合いたかった。 空を飛ぶことが好きだった彼と、 その空を写真に残すことが好きだった彼女。 いつか二人で、まだ見たことのない景色を巡ろう。 それが二人の夢だった。 でも、この時代、世界は、 夢よりも命を先に差し出すことを求めた。 出撃命令が下りた日も、 彼は何も言わなかった。 「少し遠くへ行ってくる。」 それだけだった。 彼女は笑って手を振る。 「お土産、忘れないでね。」 彼も笑ってうなずく。 本当は、その約束を守れないことを知りながら。 彼が残したのは、一冊のアルバム。 最後のページだけが白いままだった。 そこには、きっと。 二人で旅をした景色や、 笑い合う写真が並ぶはずだった。 夏になると彼女は窓を開ける。 風鈴が鳴る。 遠くで花火が咲く。 閉じようとしたアルバムに、 いつも指が止まる。 あの日の笑顔だけが、 少しも色褪せない。 彼が飛び立った空は、 今も藍色のまま。 彼女はもう、探してはいない。 待ってもいない。 それでも夏の夜風が吹くたび、 同じ夢を見たあの日だけが、 静かに帰ってくる。
Comments are disabled on this song
