
ブルガリの慧眼|お題:Mamachogoさん
街外れの小さな工房 古いランプがひとつ灯る 銀の皿に置かれた石を 誰もがただの砂利と呼んだ 傷が多い 色も鈍い 形も少しいびつだと 値踏みする声が飛び交うなか 老人だけが黙っていた 「これに値段はつけられない」 そう言って石を手に取った 「高価だからじゃないんだよ」 その先を誰も聞かなかった 光れ 光れと急かすより 光を見つける眼でいたい 百人が背を向けたって ひとりが気づく美しさ 磨いたから生まれたんじゃない 選ばれたからでもない 誰にも知られない昨日から その輝きはそこにあった 若い弟子は首をかしげ 「どうしてそんな石を?」と聞く 老人は窓辺にかざして 小さな虹を壁に映した 「傷の向こうを見てごらん」 「同じ模様は二つとない」 「綺麗な石なら山ほどある」 「だけどこの石はこれひとつ」 市場に並ぶ宝石たちは 眩しい照明を浴びていた 誰かが決めた順位のなかで あの石だけは棚になかった やがて工房に客が来て 壁に映った虹を見つける 「この光は何という石?」 老人は静かに笑った 光れ 光れと急かすより そのままの色を知っていたい 比べることで失くすものを この両手で守れるように 拍手の数で測れない 肩書きだけじゃ語れない 誰かの隣に立たなくても その人だけの輝きがある ある日 弟子は街で見かけた うつむく人と笑う人 噂ひとつで値を変えるように 昨日の言葉を塗り替える人 ふと あの石を思い出した 誰も見向きもしなかった石 老人の声が胸に響く 「見つける眼を忘れるな」 宝石ならば磨けるけれど 人の心は飾りじゃない 誰かの価値を決めるために 僕らは出会ったわけじゃない 光れ 光れと急かさない 君には君の色がある 世界中が気づかなくても 失われないものがある 磨いたから生まれたんじゃない 愛されたからでもない 何者かになったその日より ずっと前から尊かった 老人が最後に残した 小さな箱には石がひとつ 蓋の裏には短い言葉 「価値ではなく 人を見よ」 街外れの小さな工房 今日もランプがひとつ灯る あの日の弟子は窓辺に立ち 誰かの原石をそっと見つめる

