
知らない訛りが 刺さるたび 胸の奥だけ 少し熱くなる 美濃を離れた その日から もう戻らないと 背中で決めた 山を喰った 父の血は 嘲りなんて 雨とも思わず 土の味まで 飲み込んで ここまで来た 娘ひとり この男で 世界が揺らぐなら 一番近くで 見ていたいだけ 「うつけの妻」と 呼ばれながら その呼び名ごと 誉れに変わる日を ただ 静かに待っている 尾張の風は 生ぬるくて 田の水ばかり やけに光る 馬の歩みと 鼓動が少し 同じリズムを 刻みはじめる 父は地図を 描き直した 線一本で 人を動かし ならば私は この人の隣 小さな印を そっと付けるだけ 馬鹿にされてる その横顔で 世の中まるごと 裏返るなら 笑うがいいさ 今のうちに その笑い声を 思い出して そっと 微笑むために 小さな火種を 噛みしめて 甘くも苦い 美濃の娘 「尾張の妻」と 呼ばれる前に 燃える背中に 帰りつく蝶 この男で 世界が揺ぐのを 誰より近くで 見届けるまで うつけの妻で 構わない それが一番 面白い場所 未来を賭けるには 十分だ 胸のどこかで 蝶が羽ばたいた

