
あなたの重さを覚えている
私は 風を受けるために生まれた それが何のためなのかは 知らなかった ある夜 私は彼と共に空へと飛んだ 遠くで火が揺れていた 強い風が身体を引いた 細い糸が張りつめて 私は大きくひらいた そのとき初めて 彼の重さを知った 地面へ届くまで 私はその重さを支えていた 彼の名前を知らなかった なぜ空にいたのかも知らなかった 戦争という言葉も まだ 知らなかった ただ 彼の重さを覚えている あの夜 私は空でひらいていた 風を受けながら 彼の重さを支えていた 地面が近づくまで もう空にいなくていいところまで そして夜が続くあいだ 今度は彼が私にくるまった 生きるということを 私は知らなかった ただ 彼の呼吸が続いていた 長い時間 私は折りたたまれていた 風も来ない 火も見えない ある日 知らない手が私をひらいた それまでの形は 少しずつ変わっていった 私は 知らない形になった それでも 覚えていることは 変わらなかった 彼を支えたあの糸も 別の形で ここに残った 何になるのか 私には分からなかった ただ もう一度 誰かを包むのだと知った あの日 空で彼を支えた私が 今度は 歩いていく人を包んでいた 火のある空ではなく 人の声がする場所で その人は 彼の隣を歩いていた 愛という言葉を 私は知らなかった ただ 二人がそこにいた それから また違う手が私をひらいた 違う顔 違う声 違う日 彼に少し似た人もいた 私は何度も 誰かを包んだ 空を降りるためではなく 夜を越えるためでもなく ただ歩くために 誰かの隣に立ち 同じ場所へ向かって 歩いていくために 最初に覚えたのは あの夜の風と ひとりの人の重さだった それから私は その人の続きを見ていた 形が変わっても 覚えていることは変わらない あの日受けた重さも あの夜に続いた呼吸も 今も覚えている もう私は 風にひらくことはない 誰かと空を降りることもない それでも私は覚えている この身に その重さを預けた人たちを あなたたちは あれを戦争と呼んだ ここを故郷と呼んだ そして あの日を愛と呼んだ 私は そういう言葉を持たない それでも 覚えている 彼と共に 空へ飛んだこと あの夜 彼の重さを知ったこと そしていつか 同じ人が 誰かと並んで 歩いていったことを

