『琥珀の蝶』 琥珀の蝶よ 琥珀の蝶 千年の夢に 翅を閉じて 古社の奥 琥珀の欠片 朝霧だけが 私を知っていた 祈る人も 泣いた人も みんな季節の 向こうへ消えた なのに君は 私を見つけた 蝶ではなく 誰かのように 触れない指が 風をすり抜け 胸の琥珀に ひびが入った 琥珀の蝶よ 琥珀の蝶よ なぜ君だけを 覚えてしまう 人の時間は 短すぎるのに その一瞬が 永遠を壊す 琥珀の蝶よ 琥珀の蝶よ 恋を知るほど 翅が震える 触れられぬまま そばにいたくて 君の名前を 霧に隠した 倒れた君を 夜がさらった 冷たい影が 息を奪う 禁じられた 人の姿で 私は初めて 君に触れた 「生きて」とただ 声にしただけ それが私の 罪になった 君を救えば 君の記憶から 私だけが 消えるとしても 琥珀の蝶よ 琥珀の蝶よ 君は私を 忘れてゆく 握った指も 呼ばれた声も 朝の光に ほどけてしまう 琥珀の蝶よ 琥珀の蝶よ 救えたことが こんなに痛い 君の瞳に 残れないなら この恋だけを 琥珀に閉じる 君は知らない 私のことを なのになぜだろう 涙を落とす 石段の上 小さな蝶を 見上げたままで 泣いてくれた 琥珀の蝶よ 琥珀の蝶よ 消えたのは 私じゃなかった 君の中から 私だけ消えて 私の中に 君だけ残る 琥珀の蝶よ 琥珀の蝶よ 千年先も ここで眠ろう 忘れた君が 流した涙を 永遠よりも 深く抱いて 琥珀の蝶よ 琥珀の蝶 朝霧の奥で 翅を閉じた