
遠く聞こえる 笛の音に 誘われ来たなら 輪の中へ 名など訊くなよ 顔見るな 今宵限りの 盆の宵 ひとつ提灯 灯りゃんせ ふたつ影法師 踊りゃんせ 三つ数えりゃ 振り向くな 後ろの誰かも 踊り出す 四つ辻越えりゃ 宵の口 五つ鬼灯 揺れりゃんせ 六つ足音 増えたとて 数えちゃならぬよ 輪の中を カラン コロンと 下駄鳴らし ドンドン 太鼓が 夜を打つ 生きてる者も そうでないのも 今宵ばかりは 知らぬふり 踊れや 踊れ 夜明けまで くるり くるりと 輪になって ハァ ヨイヨイ 手を叩け 月も狐も 浮かれ出す 踊れや 踊れ 誰彼も 袖をひらりと 翻し 帰るところは 訊かぬもの 今宵はあの世も 盆のうち 七つ鈴の音 鳴りゃんせ 八つ篝火 揺れりゃんせ 九つ狐火 連なれば 彼岸の花が 道標 赤い鳥居を くぐるたび ひとり ふたりと 影が増す 見知らぬ顔に 呼ばれても 名前を返しちゃ いけません シャンと三味線 弦鳴らし ピイヒャラ笛まで 笑い出す 天狗も鬼も 骸も狐も 肩を並べて ひと踊り 踊れや 踊れ 夜明けまで くるり くるりと 輪になって ハァ ヨイヨイ 手を叩け 星も彼岸も 浮かれ出す 踊れや 踊れ 誰彼も 此岸彼岸の 垣根越え 今が夢でも 構わぬさ 今宵はあの世も 盆のうち 踊りゃんせ 踊りゃんせ 朝が来るまで 踊りゃんせ 帰りゃんせ 帰りゃんせ 鐘が鳴ったら 帰りゃんせ ひとつ 提灯 ふたつ 影法師 みっつ ――振り向くな 十の鐘が 鳴る前に 結んだその手を 離しなさい 名残惜しくて 振り向けば 帰る道など もうありゃせん あちらの母も こちらの子らも 言えなかったこと 胸に抱き 笑っておくれよ あと少し 次の夏まで あと少し 踊れや 踊れ 夜明けまで くるり くるりと 輪になって ハァ ヨイヨイ 手を叩け これが最後の ひと踊り 踊れや 踊れ 誰彼も 生者も死者も 手を振って 東の空が 白むころ 今宵の祭りも 店仕舞い 帰れや 帰れ それぞれに 此岸彼岸の その先へ また来る夏に 逢えたなら 今宵はあの世も―― 盆のうち ひとつ提灯 消えりゃんせ ふたつ影法師 消えりゃんせ みっつ数えて 振り向けば 祭りのあとには―― 誰もいない

