
ごぜん よじ さんじゅうにふん シャッターの降りた商店街 切れかけの街灯だけ 僕より先に瞬きをした ポケットには片道切符 行き先だけは決まってる なのに駅へ向かう靴が 自販機の前で止まった あと さんじゅっぷん 缶コーヒーの湯気が消える 誰もいない横断歩道 青だけ律儀に働いてる 「ここを出れば変われる」 さくやまではそう思ってた 逃げることと進むこと 似すぎていて分からない ごぜん よじ よんじゅうごふん あと じゅうななふん 新聞を積んだバイクが 眠った街を追い越した ひとつ またひとつ 街灯が役目を終えていく 暗くなるはずなのに 空だけ少し明るくなる 行け 行け 頭の中では叫んでる でも改札まで百メートル 百メートルがやけに遠い あと はっぷん 始発の案内が点いた ホーム番号 行き先 時刻 全部正しい 間違っているのは 僕なのか 切符を握った手の中で 昨日までが皺になった あと さんぷん 最後の街灯が揺れている 僕は初めて 駅とは反対へ歩き出す 逃げたんじゃない 残ったんでもない 今まで誰かに決めてもらった 方向をひとつ捨てただけ ごぜん ごじ にふん 踏切の向こうを 始発が走っていく 僕を乗せずに 朝を連れていく それでいい ポケットから切符を出して 裏側に小さく書いた 「ここからは 自分で決める」 消えかけていた街灯が 最後に一度だけ瞬いた 始発までの さんじゅっぷんは終わった 僕の一日は 今、始まった

