「二度と買わない」 「これは不味い」 「臭くて食えない」 スマホの中で評価が踊る 有名人がそう言うならば きっとそういう味なんだろう 俺の人生に合わないものが また一つ ……増えたと思った 若い頃から勝ち組だった 偉い作家のありがたい言葉 夢を叶えろ 自分で掴め できない奴は全部自分のせい そんな理屈が通るのならば 俺の25年 何だったんだ 今日も配達 単価は安い それでも腹はちゃんと減る 成功者には成功者の 見えてる世界があるんだろう だけど俺には俺だけの 見えてる世界があるんだぜ 不味い不味いとみんなが言う だから不味いと決めつけた だけど本当は知らないままだ だったらこの舌で確かめてやる! ローソン3軒 駆けずり回り 財布の中身は軽くなった きまぐれクックのコラボ飯 蟹味噌香るあんかけ炒飯! 車の中で傾いちまって 餡と炒飯混ざっちまった そのままレンジで温めて 蓋を開ければ 強烈な蟹味噌の香り! 一口食った ……ん? もう一口 ……おい なんだよこれ! バカ美味いじゃねえか! なんだよこの味! 不味いと決めた俺が馬鹿だった! スプーンが止まらねえ 気づけばもう空っぽ 誰が何と言おうとも 俺にはこれが美味いんだ! 尖りまくった蟹味噌の激臭 きまぐれクック! やられたよ! ……だけど あの臭すぎる磯の香り 記憶のどこかに眠っていた 生まれて間もないあの頃 静岡 清水の海があった 2年の後に秋田へ戻り 山に囲まれ育ってきた 覚えてないはずの海の景色 だけどどこかに残ってたのか この磯の香り 嗅いだ途端 胸の奥から何かが蘇る 半世紀近く眠ってた 俺の始まりの海の匂い 秋田の家ではお袋が 仙台のホヤを食わせてきた 子供の俺にはきつかった 「なんでこんなもん食うんだよ」って 松舘の辛味大根も 5歳の頃は大嫌い だけど大人になってから ぶっかけうどんに混ぜていた 嫌いだった味が好きに変わる あの頃知らなかった美味さを知る 過ぎた時間は戻らなくても 味は人生と一緒に変わる 誰かが言った正しい答え それが俺にも正しいのか 強い奴には 強い奴の人生がある 弱い俺には 俺なりの生きてきた日々がある たとえ負け組だと言われたって この味だけは奪わせない 百聞は一見に如かず そして俺は食って知った バカ美味いじゃねえか! この蟹味噌の味! 誰かの不評は俺の答えじゃない 「二度と買わない」と言う奴もいれば 二度も三度も食いたい俺がいる! 海を忘れたつもりだった 山の街で生きてきた それでも今 この一皿が 俺を清水へ連れてゆく ありがとう きまぐれクック ありがとう ローソン あの日の海がここにあった 生きてりゃ腹も減る 食うために働いて 働いて また食って たまにはこんな日もある 誰にも分からない 俺だけの美味さ 誰にも決められない 俺だけの人生 ……また食いたいな 蟹味噌あんかけ炒飯


