
朝になる前 外が騒いだ 眠りの淵で シエラは目覚める 同じ寝床で テオドアも起き 窓の向こうを 静かに見た 工房へ降りる 軋む階段 まだ温かな 夜の名残 けれどそこには 赤き旗あり 冷たい鎧が 扉を塞いだ 徴発であると 兵士は告げる この工房の 楽器を渡せ テオドアは前に 立って叫ぶ ここは自由都市の はずだろう そんなことが 許されるかと 職人の声が 木を震わせる されど赤き 騎士の目は 人の暮らしなど 見ていない ここは既に 我らの地だ 聖堂の旗が 掟となる ここにあるもの すべてを渡せ 祈りの名のもとに 奪う者たち シエラはそっと 弦を抱いた ここはわたしの 帰る場所 もう失くしたくない もう奪わせない それが今 歌う理由 遠くの空に 白き旗立つ 蹄の響きが 町を揺らす 祈りを取り戻せと 声が上がり 赤き軍勢と 白がぶつかる 埃の向こう 見覚えのある 騎士の姿が 光をまとい エリアスがいた 白き旗の先 あの日の誓いを 胸に掲げて けれど戦場は 待ってくれない 工房の中に 刃が走る テオドアの腕が 弦を守り シエラの声が 不意に開いた 祈りより生まれし 剣よ この手に掲げよ 守るために 失われしこの地を 取り戻すために 血をもって血を守る その罪を背負うとも 白き御旗のもとに 我ら今行く 赤き兵士が 怯えて叫ぶ 魔女め 歌をやめろ されどシエラは 歌い続ける ここが今 歌う理由 ゼノンを探す 歌ではない 真を暴く 歌ではない ただこの人の 明日を守る この工房の 光を守る 歌えるなら 今しかない 声が震えても 構わない 誰かの愛から 生まれたなら 今度はわたしが 愛を守る 赤き兵士の 刃が光る テオドアめがけて 真っ直ぐ落ちる だめとシエラは 身体を走らせ その前に 飛び込んでいた テオドアの声も エリアスの剣も その一瞬に 届かなかった 抱かれた弦が 胸で砕ける 乾いた音が 工房に散る 昔がまた 繰り返す ゼノンがリュシアンを 庇ったように 今はシエラが テオドアを守る 愛された弦が 愛する人へ わたしが歌う 理由はここにある 遠い昨日では もうないから あなたの手 この家の灯 ただそれだけを 守りたかった 祈りより生まれし 剣よ どうかもう 奪わないで 声が途切れて 弦がほどけて シエラの姿が 光に滲む 音が止んだ テオドアの手は 空を掴んだ エリアスの白き 旗が濡れていた 床に落ちた 青き雫 星の徽章と 砕けた弦 シエラの名前を 呼ぶ声だけが 工房の中に 残っていた

