
ゆりは光輝く神殿の中に入っていった。そして、奥にあるアシュランの間に行こうとして、ハロルドに出会ったのだった。 「あ」 「あら、こんにちは」 「何してるんだ?」 「あなたのお父様に呼ばれたの」 「お父様? アシュランか?」 ハロルドは驚き、続いて眉をひそめていた。 「何の用で?」 「さあ」 ゆりは首をかしげた。 「用件が終わったら来い」 「はーい。じゃあ後でね」 ゆりはハロルドとは別れて、アシュランの間の入り口にある分厚い布をめくってみた。 「アシュランいる~?」 ガーベラになりきって聞きながら中に入ると、アシュランは椅子に座り、床を眺めていた。床にはどこかの景色のようなものが映っている。アシュランはそれを消してゆりを見た。 「あのー私に用があるって聞いたので来たの」 「用? ああ、お前の方か」 ゆりはアシュランに近づいた。相変わらずアシュランは神々しくて顔はよく見えないくらいである。 アシュランは上を向き、「うーん」とうなっていた。 「実は、話そうか話すまいか迷っている」 「はあ」 「どうしようかな……」 アシュランは腕を組んで考えるような仕草をしていた。 「…………」 ゆりは立ったままアシュランの言葉を待っている。 アシュランはぱっと右手をあげて何かをした。 「結界を張った。ちょっと他に聞かれたくない話なんでな」 「一体なんでしょうか」 ゆりはドキドキしている。 「最近、お前の国に聖地から神官が行ってるだろ」 「神官? ああ、クーガ様?」 「そうだ。実は、あいつは見かけはすごく若く見えるのだが、もうすぐ1000歳になる」 「せん? 千? あの方そんなに長生きしてるんですか?」 ゆりは目をぱちくりさせていた。 「そうなんだ。それで私はやつに、1000歳になる時に誕生日の贈り物をやると約束してしまった。ところが、あいつの願いは、『普通に老いて死ぬこと』らしいのだ。 私はあいつが1000歳の誕生日にそれを願われたら、かなえてやらなければならない。どうにかやつの望みを変えたい。お前、なんとかしてくれ」 「…………」 ゆりはぽかんとした顔付きになった。 「いや、なんとかしてくれと言われましても……」 何かと思えばいきなり無茶な要求である。 「私に一体どうしろと?」 「お前ならあいつを変えられるかもしれないだろう? 実はそう思ってあいつをあそこに行かせるように仕向けたんだ」 「えー? あのクーガ様は月に一度来るだけなんですよ。しかも一時間くらいしか一緒にいないんですよ?」 「それでもなんとかしてほしい。お前なら何かしてくれそうな気がする」 「そんなこと言われましても……なんで誕生日の贈り物をあげる約束をしちゃったんですか? 誕生日の贈り物なんですから、物とかにすればよかったのに」 「仕方がないだろう。もう約束しちゃったんだ」 「本当にクーガ様は老いたいって思ってるんですか?」 「本人からはっきり聞いたわけではないが多分な」 「じゃあ違うかもしれないじゃないですか」 「1000歳になる時に願いを言うと言われてるが、多分そうだ。違うならありがたいが」 「クーガ様はどうして老いないんですか?」 「それは多分私の血だろうな」 「え?」 「あいつは私の息子だ」 「えーーーー!」 ゆりは驚いて顔を後ろにのけぞらせていた。 「あいつの母親は人間だ。あいつは小さい頃に母親とも離されて、辛い思いもしただろう。神の国に引き取るわけにも行かず、聖地にいさせるしかできなかった」 「いっそのこと妖精にして神の国で育てたらよかったんじゃないですか?」 「そうしたいとも思ったが、当時は無理だった。ヒルデリアの機嫌が最高に悪かったからな。今は、あいつはそんなことはこれっぽっちも望んでいないから、言っても了承しないだろう。 なんとか生きていたいと思わせたいんだが……」 「クーガ様に彼女とかいないんですか?」 「いない。あいつはまるで女に興味を持たないんだ。ハロルドやラーズを虜にしたお前の魅力でなんとかしてくれ」 「いや、なんとかしてくれと言われましても……二人とは状況が違います。いっそのことガーベラにくどいてもらってください。妖精の恋人とかならいいと思いますが」 「いろいろしてはみたんだ。前にダーナに会わせたが、あいつはダーナにもその気にならなかった。アリアスの娘達でも無理だった。とにかくどんな女にもその気にならないんだ」 「隠れて彼女がいるかもしれないんじゃないですか」 「いない。断言してもいい」 「そんな人私にも無理ですよ」 「いいからやってみろ」 「何をやってみるんですかあ」 ゆりは泣きそうな声である。 「あいつの望みが変わったら、あの石の箱を満タンにしてもいい。とにかく頼む」 「石のためでも無理です。というよりも石のためにそんなことしないです」 「いいからやれ」 有無を言わせぬ感じである。 「クーガ様は不老不死なんですか?」 「それはわからん。なにせ、神と人間の間の子供はクーガが初めてなのだ。他にはいない」 「もし願いをかなえても、徐々に老化するんでしょう? すぐおじいちゃんになるわけじゃないですよね」 「せっかく若いままなんだからわざわざ年をとらなくてもいいだろう。生への執着がわけば、若いままでいたいと思うはず。お前がそう思わせろ」 「えー……」 ゆりはまるで自信がなさそうだった。 「それでいつ1000歳になるんですか?」 「今年の末だ。13の月22日」 「こ……今年……なんでもっと早く言わないんですか!」 「いろいろあるんだ。とにかくよろしく頼む」 「はあ……もし失敗しても私に怒らないでくださいよー」 「わかってるわかってる」 アシュランは手でもう去ってもいい仕草をしていた。 「あ、そうだ。ハロルドには言うなよ」 「誰かに相談させてくださいよ!」 ゆりは切れ気味である。 「わかった。だが、あいつに相談しても無理だと思う」 ゆりはため息をつきつつアシュランの間を出て行った。

