Song Cover Image

真夜中便

V6

午前二時のコインランドリー 丸い窓には 小さな銀河 片方だけの靴下が 宇宙飛行士みたいに回る 隣の椅子には 見知らぬ人 冷めた肉まん 半分くれた 「今日は地球が重たいね」 変な挨拶 ちょっと笑った ぐるぐる まだ回る ぐるぐる 夜が回る 洗剤 柔軟剤 小銭が足りない 両替 売り切れ ついてない! 電話は充電切れ寸前 天気予報は明日も雨! そのとき洗濯機の奥から 低い声で 「出発します」 まわる まわる 真夜中便 濡れた街ごと 連れてゆけ すすぎの次は 土星です お忘れ物は ありませんか まわる まわる 真夜中便 百円玉で 星を越え 帰りの時間は 決めないで 乾くまでなら 旅に出よう がたん、と床が傾いて 自販機だけが 宙に浮く 隣の人は驚かず 肉まんの袋を 折りたたむ 「初めてですか」と聞かれたから 「洗濯ならば」と答えてみた そうじゃないよと笑う口に 小さな土星の輪が見えた 右手に流星 左手に衛星 正面 巨大な忘れ物! 木曜日の傘 十年前の鍵 言いそびれたままの「ありがとう」 あれも漂う これも漂う 誰かが探したものばかり 避けて 曲がって 急いで止まって 祖母の湯飲みが横切った! 欠けたふち 花の柄 指でなぞった あの青さ もう一度だけ 触れたくて 窓に伸ばした手が 冷たかった まわる まわる 真夜中便 遠い昔が 目の前で 湯気の向こうに 消えてゆく 追いかけたって 届かない まわる まわる 真夜中便 隣の人が そっと言う 「忘れたものと なくしたもの 同じ場所には 着かないよ」 急に静かな脱水槽 星がひとつも見えなくなる わたしは残った肉まんを ゆっくり ゆっくり 噛みしめた おいしいね、と言ったあと なぜか涙が落ちてきた 隣の人は うなずいて 空の袋を受け取った ぐるぐる まだ回る ぐるぐる 朝になる 到着 減速 重力復活 自販機着地で 缶が出た! 点滅 消灯 乾燥終了 知らない靴下 一枚追加! 窓にはいつもの駐車場 斜めに停まった白い軽 隣の椅子には誰もいない ほんのり残った あたたかさ まわる まわる 真夜中便 昨日と同じ街だけど 始発を待ってるあの人に 少し場所を あけてみる まわる まわる 真夜中便 百円玉が あとひとつ 見知らぬ靴下 たたんだら 次に会うまで 預かろう 午前五時のコインランドリー 丸い窓には 朝の色 袋の底で 小さな星が からん、と鳴った