
チャイムが鳴った 体が固まる ドアの向こうに誰かが立ってる 黒Tシャツ 無精髭(ぶしょうひげ) 心の準備ゼロ 二秒で顔が燃えた 待て かわいすぎないか 何か喋れ 何でもいい 日本語だ日本語 どうも それが俺の全力 作りすぎたんで よかったら そのひと言に三十分かけた 嘘だよ あんたのために作った でもそれは墓まで持っていく 隣の男は頭がおかしくなりそうだ あんたの何もかもに振り回されて 妄想が暴走して止まらない なのに口が動かない 口が動かない 頭の中で台本を書いてる 一生演じないラブシーンを 隣の男はもう手遅れだ 名前を覚えられたのが とどめだった 郵便受けで指が触れた 火曜の午後三時 一生忘れない 重い 自分でもわかってる でも手がまだ温かくてリプレイが止まらない ベンチプレス百キロ挙げる デバッグで飯食ってる 本棚の恋愛漫画は全巻制覇した なのに何ひとつ俺を備えさせちゃくれなかった 壁越しのあんたの笑い声には 王道も邪道も全部知ってる 敵同士から恋人 偽カップル スロウバーン 教科書は隅から隅まで読んだのに スタメンにすら はいれやしない 隣の男は頭がおかしくなりそうだ あんたの何もかもに振り回されて 妄想が暴走して止まらない なのに口が動かない 口が動かない 部屋でひとり台詞の練習してる 永遠に来ない会話のために 隣の男はもう手遅れだ たぶんまた耳まで赤くなってる これが「落ちる」ってやつか つまずいたんじゃない 突き落とされた あんたの笑顔に 二メートル先から 俺 恥ずかしすぎるな もし言葉がちゃんと出る日が来たら もし頭の中が現実になったら あんたの手を離さない自信はある 一度じゃ足りない自信もある でも今は 隣の男は頭がおかしくなりそうだ 正直もう正気に戻りたくない 積み上げた妄想の全部が 目の前のあんたには敵わない だからまた作りすぎたふりをして 偶然を装い続ける 隣の男はもう完全にあんたのもの ただもう少し いやかなり時間がほしい

